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2020年12月23日水曜日

活動写真と映画の始まり|ゾエトロープからシネマトグラフへ

それは賭け事から始まった

 1872年、スタンフォード大学の創設者でカリフォルニア州知事を務めていたリーランド・スタンフォードは、馬が走っているときに、4本の脚すべてが地面から離れる瞬間があるかどうか友人と賭けをしました。

馬が走っているときの脚は・・・
馬が走っているときに脚は・・・

 スタンフォードはその事実を確認するため写真家のエドワード・マイブリッジに馬が走っている瞬間をとらえた写真の撮影を頼みました。

スタンフォード(左)とマイブリッジ(右)
スタンフォード(左)とマイブリッジ(右)

瞬間を捉える写真技術

 疾走する馬の瞬間を写真でとらえるためにはカメラのシャッター・スピードを速くしなければなりません。シャッター・スピードを速くすると、フィルムの露光時間が短くなります。

 当時、一般に使われていた写真の感光材料は感度が十分ではなく、疾走する馬の足の動きの写真を撮影するのは容易なことではありませんでした。 

 そこで、マイブリッジは5年の歳月をかけて、感度の高い感光材料の開発に取り組みました。そして、電気技師のジョン・D・アイザクスの協力を得て瞬間の写真を撮影することができる装置を開発し、馬の4本の脚すべてが地面から離れている決定的瞬間をとらえた写真を1877年7月1日に撮影することに成功しました。

4本の脚が地面から離れている馬の写真
4本の脚が地面から離れている馬の写真(1878年撮影のもの)

連続写真から動画へ

 1878年、マイブリッジ はこの装置を12台並べて、 疾走する馬の連続写真の撮影に成功しました。マイブリッジはその連続写真をイギリスのウィリアム・ジョージ・ホーナーが1834年に発明したゾエトロープ(回転のぞき絵)にかけました。

ゾエトロープ
ゾエトロープ

 ゾエトロープを回転し、隙間からのぞくと、馬が疾走する様子がアニメーションのように見えました。

マイブリッジの連続写真のGIFアニメーション
マイブリッジの連続写真のGIFアニメーション

 その後、マイブリッジは幻灯機を組み合わせて、動く馬をガラス板に投影させるゾープラクシスコープをつくり、映像を1879年にサンフランシスコで一般公開しました。なお、このとき、マイブリッジが投影した映像は写真ではなく、撮影した写真をトレースした図によるものでした。

マイブリッジがゾープラクシスコープにかけた図
マイブリッジがゾープラクシスコープにかけた図

エジソンのキネトスコープ

 マイブリッジの連続写真はトーマス・エジソンを大きく刺激し、エジソンは1891年に映写機キネトスコープを発明しました。キネトスコープは箱の中を上部の穴からのぞき込み、Motion Picture(活動写真)を見るタイプの映写機でした。

エジソン(1878年)とキネトスコープ
エジソン(1878年)とキネトスコープ

 キネトスコープは1893年にシカゴで開催された万国博覧会に出品され、世界中から注目を受けました翌年にはブロードウェイに世界初の映画館キネト・スコープ・パーラーが作られました。

 キネトスコープ・パーラーは映画館といっても、一度に多くの観客がスクリーンを見ることができる現在の映画館のようなものではありません観客は館内に設置されたキネトスコープをのぞいて映像を楽しみました。


シネマトグラフの登場

 1890年代にフランスのオーギュスト・リュミエール、ルイ・リュミエールのリュミエール兄弟が動画をスクリーンに映し出すことができるシネマトグラフを発明し、現在私たちが見る映画とほとんど同じ仕組みの映画が生まれました。

リュミエール兄弟とシネマトグラフ
リュミエール兄弟(左からオーギュストとルイ)とシネマトグラフ

 シネマトグラフで世界で初めて上映された映画はリュミエール兄弟が制作した上映時間46秒の1894年の作品「工場の出口」というタイトルのものです。

リュミエール兄弟制作映画 工場の出口
リュミエール兄弟制作映画 工場の出口

 そして、1895年12月28日にパリのサロン・ナンディアン(現ホテル・スクリーブ・パリ)で「工場の出口」を含む10本の映画が観客を集めて上映されました。これが世界初の映画の商業公開となりました。

 日本にはシネマトグラフは1897年にやってきました。自動写真と訳されたシネマトグラフの噂は瞬く間に広がり、2月15日から行われた大阪の上映は連日人が並ぶほどの満員となりました。

 活動写真は当初はありふれた光景を撮影したものでしたが、やがて演劇などを実写化したものなどが登場します。やがて、文化や芸術的な要素が加わり、現在で言うところの映画が作られるようになりました。

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2020年12月9日水曜日

ライト・トーナス値に関する検討

【20060721】調査開始するも資料少なく断念、以降、継続して調査続ける
【20201204】公開 この記事は調査を重ねながら加筆していきます。

はじめに

 色彩心理学の本やサイトを見ていると、「ライト・トーナス値(Light Tonus Value)」という光による筋肉の緊張や弛緩の効果を示した数値の説明が出てきます。

 ヒトが色に対して心理的な反応を示すことは広く知られていますが、これは視覚と脳の働きによるものと考えられています。ヒトと光や色の関わり合いについては、いまだ解明されていなこともありますが、その中でも「ライト・トーナス値」は気になりました。

 「ライト・トーナス値」の説明においては、身体が視覚の影響を受けずに光の色を感知し、筋肉が緊張したり、弛緩したりするとされています。また、血圧や呼吸数も変化するとされています。つまり、目隠しをしている状態で、皮膚が色を感知しているということです。

 皮膚が色を感知するということは、皮膚の細胞が可視光線の波長の違いを識別するということです。科学的根拠があるのかどうか、いろいろ調べてみました。なかなか原著論文にはたどり着くことができず、この数値がどのような実験あるいは経験則で求められたのか詳細はわかりませんでした。

 2007年に、ある科学系フォーラムにおいて、ライト・トーナスについて取り上げ、科学を専門とする参加者に調査の協力をして頂きましたが、やはり原著論文にたどりつくことはできませんでした。当時の参加者の見解は、皮膚で色を見分けることができるとは考えられないというものでした。

 いろいろ調べているうち、2016年に国立国会図書館レファレンス協同データベースレファレンス事例詳細(Detail of reference example)に下記の事例紹介がアップされていることに気がつきました。

「ライトトーナス値」の算出方法について記載がある資料があれば紹介してください。

下記の[その他の調査済み資料及びデータベース]に記載の情報源を調査しましたが、「ライトトーナス値」の算出方法に関する記載のある資料は確認できませんでした。また、調査の過程で……

 何か新しい情報が出ているかなと期待しましたが、残念ながら国立国会図書館のレファレンス事例の調査でも原著あるいはそれに類する資料を見つけることはできなかったようです。

ライト・トーナス値とは

 ここでライト・トーナス値がどのような指標であるかをまとめておきます。おそらく、もっとも古くから参照されてきた書籍はFaber Birren氏の1950年に出版された下記のものと思われます。

Color Psychology and Color Therapy: A Factual Study of the Influence of Color on Human Life(Faber Birren 1950)


「ライト・トーナス値」に関して下記のように説明しています。

Color Psychology and Color Therapy: A Factual Study of the Influence of Color on Human Life(Faber Birren 1950)から引用
 In 1910 Stein called attention to a general light tonus in muscular reactions of the human body.  The word "tonus" refers to the condition of steady activity maintained by the body. Conditions of muscular tension and muscular relaxation, for example, are tonus changes. They are to some extent noticeable and measurable and are a good clue to the action of color. Fete discovered that red increased muscular tension from a normal 23 units to 42. Orange increased the units to 35, yellow to 30, green to 28 and blue to 24 -  all above normal. In the main. however, the warm hues are stimulating, while the cool hues are relaxing.

これを要約すると、下記のようになります。

 1910年、スタインは人体の筋肉反応におけるライト・トーナスに注目しました。 「トーナス」は身体によって維持される安定した活動の状態のことです。筋肉の緊張状態や筋肉の弛緩状態はトーナス変化です。 それらはある程度自覚があり、測定可能であり、色の作用の良い手掛かりとなります。 Fete は赤が平常値の23から42に筋肉の緊張を増加したことを発見しました。オレンジは35、黄色は30、緑は28 、そして青は24と、すべて平常値より増加させました。概して、暖色は緊張させますが、寒色は弛緩させます。

状態
 赤 42緊張
 橙 35
 黄 30
 緑 28
 青 24弛緩
23平常

 Faber Birren氏の書籍では、このようにライト・トーナス値について定義されていますがスタインに関する論文は見つかりません。

 国内の著書では野村順一氏の著書にライト・トーナス値に関する記述が多く見られます。自分が最初に「ライト・トーナス値」を認識したのも同氏の『カラー・マーケッティング論』でした。この本のカラートーナス値の説明にも参考文献の引用がありません。

カラーマーケット論(野村順一 1983)


 もちろん論文が見つからないからと言って、即座にライト・トーナス値を否定することはできませんが、現在のところ何をもって値が求められたのか不明なのです。

皮膚は色を感じることができるのか

 脊椎動物が色を見ることができるのは視細胞に存在するロドプシンという物質が関係しています。ロドプシンはオプシンというタンパク質にビタミンAのレチナールが結びついたものです。ロドプシンは光を受けると、構造が変化します。このロドプシンの構造変化が視神経を通じて脳に届き、私たちは色を「見る」ことができます。その仕組みについては、本館「光と色と」の「視覚が生じる仕組み 色が見える仕組み(3)」に解説がありますのでご覧ください。

 さて、昔からロドプシンは視細胞にしか存在しないと考えられていましたが、最近になって皮膚の細胞にもロドプシンが存在することがわかりました。ロドプシンが存在すると言っても視神経のような情報伝達の仕組みがなければ色覚は生じませんから、皮膚が色を感じることができるという証拠にはなりません。

 たとえば、紫外線を浴びるとメラニン色素が増えて日焼けしますが、最近の研究で、日焼けに皮膚細胞に存在するロドプシンが紫外線を感知していることがわかってきました。

Laser Focus World Japan
皮膚がUV光を「見る」と、色素の生成が始まる
http://ex-press.jp/previous/lfwj/news2011/news_20111115_03.html

 たいへん興味深い研究結果ですが、皮膚に存在するロドプシンが紫外線を感知するからと言って、皮膚が可視光線の波長の違い(=色の違い)を感知できるとは言えません。ですから、ライト・トーナス値の確証にはなりません。

 東北大学の研究では、ある種の遺伝子操作をしたラットの足の裏に青色光と赤色光を照射すると、ラットの反応が異なることが明らかにされてます。

東北大学2012年プレリリース
皮膚で光を知覚する!?(チャネルロドプシン遺伝子組換えラットのスーパー感覚)
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2012/03/press20120302-01.html

 これは明らかにラットの足の裏の皮膚が青色光と赤色光を区別していると言えるでしょう。このラットが色を区別しているのは触覚であり、色覚ではありませんが、そもそもライト・トーナス値も筋肉反応を定量化したものですので、だいぶ近づいたと言えるでしょう。

 このラットの足の裏に波長の異なる可視光線を当てて、その反応を定量的に解析すると、ライト・トーナス値のような数値を定義することはできそうです。

 しかし、この研究結果は、あくまでも遺伝子組み換え操作をされたマウスによるもので、自然のマウスの反応ではないことに注意しなければなりません。ですから、この研究成果をもってしても、ライト・トーナス値の確証が得られたというわけではありません。

 このように皮膚細胞に存在するロドプシンに関する研究が進んでいますが、現在のところはライト・トーナス値を肯定するようなものは出ていないと言えるでしょう。

 ライト・トーナス値の定義はあまりにも確定的です。ライト・トーナス値は最初の臨床的な実験に尾ひれがついて現在のように語り継がれている可能性がありそうです。

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2020年11月10日火曜日

電磁波とは何か

電磁波とは

 ラジオやテレビ放送、携帯電話などの通信には、電波が使われています。波が伝わるためには媒質が必要ですが、電波は宇宙空間や真空中も伝わります。媒質がないのに伝わる波とは、どのような波なのでしょうか。

 導線に電流を流すと、導線のまわりに電流とは垂直な方向に磁界が発生します。このとき、導線に流す電流の向きを変化させると、磁界の向きも変化します。磁界が変化すると、磁界に垂直な方向に電界が生じます。このように、電界の変化は磁界を生じ、磁界の変化は電界を生じるという過程が繰り返されます。その結果、電界と磁界がお互いに直交するように発生しながら空間を伝わっていきます。この繰り返しで発生する波が電波の正体で、これを電磁波といいます。電磁波は次の図のように電界と磁界の変化の繰り返しのため、媒質がない真空中でも平気で伝わることができるのです。

電磁波
電磁波

赤外線と紫外線の発見

 1800年、イギリスのウィリアム・ハーシェルは、プリズムで分散した太陽光のスペクトルの様々な位置に温度計を置き、どの色の光の温度が高くなるか調べました。すると、赤色の外側の何もないところで、温度が一番高くなることを発見しました。赤色の外側には熱を運ぶ熱線が存在すると結論づけられました注1

  その1年後、ハーシェルの熱線の発見に触発されたドイツのヨハン・ヴィルヘルム・リッターは、太陽光のスペクトルの紫色の外側の色の見えない部分で感光剤が変色することを発見しました。紫色の外側には物質を変化させる化学線が存在すると結論づけられました注2

 熱線と化学線は発見当初から光の仲間と考えられていましたが、決定的な証拠が見つからなかったため、光とは別のものとされていました。その後、熱線や化学線の性質やスペクトルの研究が進み、熱線や化学線が光の仲間であることが確認され、それぞれ赤外線、紫外線と名づけられました注3

光は電磁波の仲間

 電磁波の存在はイギリスのジェームス・クラーク・マクスウェルが1864年に発表した論文『電磁場の動力学的理論』において予言されいました。マクスウェルはファラデーの電磁誘導の法則やアンペールの法則をもとに、数学的に理論をまとめ、電磁波の存在を予言するに至ったのです注4

 また、マクスウェルは自身の理論から真空中の電磁波の速度を秒速30万キロメートルと計算で求めていました。この値は1849年にフランスのアルマン・フィゾーが実験で求めた光速の実測値と良く一致していました注5。マクスウェルは電磁波と光の速度が一致していることから、光は電磁波の仲間であると考えました。

 しかし、マックスウェルの理論が難解であったことや、肝心の電磁波の存在が確認できていなかったことから、マクスウェルの主張は直ちに多くの科学者に認められたわけではありませんでした。

 1888 年、ドイツのハインリヒ・ヘルツは放電現象によって電磁波が発生することを実験で確かめることに成功しました。彼の実験によって、電磁波が確かに存在することが確認されたのです。このときマクスウェルの死後9年が経過していました。

ジェームス・クラーク・マクスウェル(左)とハインリヒ・ヘルツ(右)
ジェームス・クラーク・マクスウェル(左)とハインリヒ・ヘルツ(右)

電波・赤外線・可視光線・紫外線・放射線は電磁波の仲間

 現在では、赤外線や紫外線のさらに外側にも、目に見えない光の仲間が存在することがわかっています。人間に見ることができる可視光線は、実は光の仲間のごく一部に過ぎません。

 赤外線の外側にある電磁波は、テレビ、ラジオ、携帯電話、電子レンジなどの電気機器で使われている電波です。紫外線の外側には、エックス線、ガンマ線という電磁波が存在します。エックス線やガンマ線は医療、農業、工業など幅広い分野で利用されていますが、エネルギーが極めて大きく、とり扱いが難しい光です。

 電磁波は狭い意味では電波のことを指しますが、広い意味では光の仲間すべてを含みます。次の図は電磁波の種類を示したものです。電磁波はその振動数(周波数)に応じたエネルギーを有しており、計算で求めることができます注6

電磁波の種類
電磁波の種類

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2020年11月5日木曜日

レンズの中心を通る光線はそのまま直進するのか?

光は物質の境界面で進む向きを変える

 次の図のように平らなガラス板に光を当てると、ガラス板に垂直にあたった入射光Aはそのまま直進しますが、ガラス板に斜めにあたった入射光Bは、ガラスに入るときとガラスからでてくるときに、ガラスの表面で進む向きを変えます。このような現象を屈折といいます。一般に、光はある物質から屈折率の異なる物質に入るときに、その境界面で屈折します。

ガラス板を通る光の屈折
ガラス板を通る光の屈折

 このガラス板の表面はどの部分も平面なので、互いに平行な入射光BとB'は同じように屈折して進みます。このとき、ガラス板からでてくる射出光BとB'も平行になるため、この2つの光線が交差することはありません。入射光の角度を変えずに2つの射出光を交差させるためには、ガラス板の表面の形状を意図的に変えて、それぞれの光の進み方を変える必要があります。このような目的でガラス板の表面を加工したものがレンズといえるでしょう。

プリズムを通る光

 次の図はプリズムによる光の屈折を示したものです。プリズムに入射した光は、プリズムに入るときと、プリズムからでてくるときに、プリズムの表面で屈折します。このとき、光の進む道筋はプリズムの厚みが肉厚になる方向に折れ曲がります。

プリズムによる光の屈折
プリズムによる光の屈折

レンズを分解して考える

 レンズはたくさんのプリズムが集まったようなものと考えるとわかりやすいでしょう。次の図は細かく分解した凸レンズに入る平行光線の進み方を示したものです。レンズを分解した各々の部分がプリズムのような働きをして、光を屈折させていることがわかります。

レンズを細かく分解して光の道筋を考える
レンズを細かく分解して光の道筋を考える

 レンズで屈折する光の道筋は、プリズムと同じように、レンズの厚みが肉厚になる方向に折れ曲がります。光が折れ曲がる度合いは、レンズの周辺ほど大きくなります。レンズの作用は表面の形を変えることで決めることができます。たとえば、凸レンズは平行光線が1点に集まるように、ガラス板の表面を意図的に中心部がふくらんだ球面にしたものです。

レンズの中心を通る光線はそのまま直進するのか

 レンズの光の進み方を学ぶときに、レンズの中心を通る光線はそのまま直進すると習います。次の図は凸レンズで実像を作る様子を示したものです。

凸レンズで実像を作る様子
凸レンズで実像を作る様子

 次の図は上図の凸レンズの中心部を拡大したものです。すべての光線はレンズの表面ではなく、レンズの中心を通る垂線で折れ曲がるように描かれています。ここで、レンズの中心を通る光線に着目してみましょう(わかりやすくするため中心分を黄色い丸で囲ってあります)。レンズの中心を通る赤・緑・青の3本の光線はレンズの中心を通って、そのまま直進しています。このうち緑の光線は光軸(レンズの軸)に沿って進むので、そのまま直進するのはわかりますが、赤と青の光線はレンズに入るときと、レンズから出てくるときに、レンズの表面で折れ曲がっているはずなのに図のように描かれています。

凸レンズの中心を通る光
凸レンズの中心を通る光

 上図は前述の「レンズを分解して考える」の説明とは矛盾しています。そのため、表題の「レンズの中心を通る光線はそのまま直進するのか?」という基本的な疑問が出てくるのだと思いますが、その答えは

光軸(レンズの軸)に沿った光線はそのまま直進するが、それ以外の光線はレンズの表面で屈折するためそのまま直進しない

です。教科書などに記載されているレンズの作図は上図と同様に描かれています。このレンズの作図は正しいのでしょうか?

レンズの中心を通る光を作図してみる

 次の図はレンズの軸(光軸)から離れたところからレンズの中心を通る光の道筋を作図したものです。赤い線のようにレンズに入射するときにレンズの表面で屈折します。その後、レンズの中心を通り、レンズから射出するときに再びレンズの表面で屈折します。このようにレンズの表面で2回屈折するように描いた光線が正しい「レンズの中心を通る光」の道筋です。

 それでは、なぜこの光線を教科書などの作図では上図の青の点線のようにレンズの中心を通るように描いているのでしょうか。それは凸レンズに入る赤い光線と凸レンズから出てくる赤い光線が平行光線になっているからです。赤い光線と青い光線の経路は異なりますが、出発点と到着は同じです。ですから、レンズの軸(光軸)から離れたところから入射し、レンズの中心を通る光線については青い点線のように描くことができるのです。実像や虚像の作図には影響しないのです。しかし、どのような場合でもこのような作図をして良いのかというと、そうではありません。ある条件があります。

レンズの中心がどこにあるかが重要

 どのような条件とのときに上図の青い点線のような光線を描くことができるか考えてみましょう。

 実はレンズの中心というのはレンズの物理的なサイズから求められるわけではなく、光がレンズを通過するときの光学的なふるまいから決まります。この光学的に求めたレンズの中心のことを主点と言います。

 教科書に出てくるような普通のレンズは材質が均一で両面の形状が対称です。このような場合には、レンズの物理的なサイズから決まる中心と主点が一致し、レンズの中心を通る光線は上図の青い点線のように描くことができます。

 それでは、たとえば、レンズの片面が平面でもう片面が球面の平凸レンズはどうでしょうか。平凸レンズは両面の形状が非対称のため、レンズの物理的なサイズで決まる中心と主点は一致しません。さらに、光を平面側から入射するか、球面側から入射するかで、主点の位置が変わります。このような場合には、レンズの中心を通る光線は、レンズの物理的なサイズで決まる中心を通るように描くことはできないのです。


平凸レンズの後側主点(左)と前側主点(右)

 しかしながら、どのようなレンズでも、入射光と射出光のふるまいを考えることによって主点の位置を求めることができます。主点の位置がわかれば、レンズの主点を通る光線はそのまま直進するように描くことが可能です。厚さを無視できる1枚の仮想的な薄肉レンズとして扱うことができます。主点を通る垂線を主平面と言いますが、すべての光線は主平面で折れ曲がるように描くことができるのです。

 カメラに使われているような複数のレンズを組み合わせた複合レンズも、レンズ光学系の主点の位置がわかれば、光学的に仮想的な1枚のレンズとして扱うことができます。

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2020年10月22日木曜日

反射|図解 光学用語

反射とは はんしゃ、 reflection

 反射とは、光や音などの波が物体に当たった時に跳ね返る現象のことです。ここでは、光の反射の法則について説明します。

 平面鏡を正面からのぞくと、鏡に自分の顔が映ります。しかし、鏡を斜めからのぞくと、鏡に自分の顔が映らず、別の場所が映ります。

 下図左のように、光が平面鏡の面に垂直にあたった場合、光はやってきた方向に跳ね返りますが、右のように斜めにあたった場合には、光は平面鏡にあたった角度と同じ角度で跳ね返ります。そのため、鏡を斜めから覗いたときには自分の顔が見えずに、光が反射する先にある別の場所が見えるのです。

平面鏡による光の反射
平面鏡による光の反射

 次の図のように、光が反射するとき、入射光線と反射光線は必ず同じ面にあります。光が鏡の面にあたる角度を入射角、反射する角度を反射角といい、入射角と反射角は常に同じ角度になります。また、この関係を「光の反射の法則」といいます。

光の反射の法則
光の反射の法則

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2020年10月21日水曜日

虹を白色光に戻す |ニュートンのプリズムの分散の実験をやってみた③

単色光をプリズムに通す実験

 ニュートンはプリズムでできるスペクトルが円形ではなく縦長になる理由を突き止めるため、次の図のように、スペクトルから単色光を取り出し、もうひとつのプリズムに通す実験を行いました。すると、赤色光よりも紫色光の方が大きく屈折することがわかったのです。ニュートンは、この実験の結果から、スペクトルが縦長になる理由は、光の色によって屈折の度合いが異なるためであることを突き止めました。

プリズムでできたスペクトルから単色光を取り出す
プリズムでできたスペクトルから単色光を取り出す

 次の映像はさまざまな色の光が水中から空気中に出ていくときの屈折の様子を撮影したものです。光の色によって屈折の度合いが異なるのがよくわかります。なお、この実験は本ブログ著者が行ったものではありません。

Reflection and refraction of colored light in water air surface 2, varying incidence angle

太陽光はたくさんの色の光からできている

 一連の実験の結果から、ニュートンは、光はプリズムを通って単純に色を呈するわけではないと考え、アリストテレスの改変説を否定する結論に至りました。そして、この結論を実証するため、次の図のようにプリズムで作ったスペクトルを凸レンズで集め、もうひとつのプリズムに通す実験を行いました。ニュートンは無色の太陽光がさまざまな色の光からできているのであれば、それらの光を集めれば元の無色の白色光になると考えました。実験の結果はニュートンが予想した通りになりました。X

プリズムでできたスペクトルを無色の太陽光に戻す
プリズムでできたスペクトルを無色の太陽光に戻す

ニュートンはこの結論をさらに確かなものとするため、虹色の帯から任意に取り出した2色の光を混合して別の色の光を作り出す実験も行っています。

2色の光から別の色の光を作る
2色の光から別の色の光を作る

スペクトルを白色光に戻す実験をやってみた

 この実験を再現してみました。使用した光源は次の写真のようなハロゲンランプの白色光源です。光源にプリズムが付いていますので、簡単に虹を作ることができます(昔と違って便利なものがあります。ニュートン先生、実験手順を簡略化してごめんなさい)。


プリズム付きハロゲンランプとスペクトル

 さて、この光源+プリズムの後に、レンズともうひとつのプリズムを並べて、次の写真のような実験装置(か!笑)を組み上げました。

プリズムでできたスペクトルを太陽光に戻す実験装置
プリズムでできたスペクトルを白色光に戻す実験装置

 何ともお粗末な実験装置ですが、これで虹色のスペクトルは元のハロゲンランプの無色の白色光に戻るのでしょうか。まず、この装置から凸レンズとプリズム2を外し、光源とプリズム1で、壁に虹色の帯を作りました。

ハロゲンランプのスペクトル
ハロゲンランプのスペクトル

 続いて、実験装置にプリズム2だけを加えました。すると、次の写真の左側のように、プリズム1で壁の上部にできたスペクトルの一部の光がプリズム2を通り、壁の下部にスペクトルを作りました。そして、プリズム1とプリズム2の間に凸レンズを入れ、凸レンズの位置を調整しました。すると、写真の右側のように、凸レンズで集められたスペクトルがプリズム2で白色光に戻りました。どうやら、ニュートンの実験の再現に成功することができました。

スペクトルを元の白色光に戻す実験結果
スペクトルを元の白色光に戻す実験結果

終わりに

 プロローグで説明した通り、ニュートンは1666年から行った一連の実験結果を1672年に『光と色についての新理論』にまとめ、ロンドン王立協会に送りました。

 ニュートンはこの論文で光の正体について言及し、光線は光の最小の粒子の流れであり、屈折で色が生じるのは、光の色によって粒子の種類が異なるからだと説明しました。この説明がニュートンが光の粒子説を唱えたという由縁となりました。

 ロンドン王立協会はニュートンの論文をイギリスのロバート・フックとオランダのクリスティアーン・ホイヘンスに送りました。光の正体は波であると考えていた彼らは、それぞれ独自にニュートンの光の粒子説に徹底的に反論しました。

 同時に、彼らは、白色光が様々な色の光から成ることも否定しています。例えば、ホイヘンスは青色光と黄色光の2つの光を混合するだけで白色光を作れると反論としています。ホイヘンスは光の混色について理解はあったようですが、ニュートンの白色光が多数の色の光からなるという実験結果には理解を示しませんでした。

 このとき、ニュートンは 20代後半、フックは30代後半、ホイヘンスは40代初めでした。偉大な科学者を前にした若きニュートンはこの実験結果は太陽光に限ったものとしたのです。

フックとホイヘンスとニュートン
フック(左)とホイヘンス(中)とニュートン(右)

 1704年に『光学』が出版されたとき、ニュートンは万有引力の発見によって、物理学において絶大な権威を有していました。『光学』でリベンジする結果となった光の粒子説に対して反論できる科学者は、もはやほとんどいませんでした。

虹を白色光に戻す |ニュートンのプリズムの分散の実験をやってみた③

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2020年10月20日火曜日

白色光|図解 光学用語

白色光とは はくしょくこう、white lite

 白色光とは、色覚を与えない無色の光のことです。白色光が空気中の微粒子などで散乱すると白色に見えます。また、可視光線の全ての波長を乱反射する物体に白色光を当てると、その物体が白く見えます。白色光を発する光源を白色光源といいます。

 白色光の物理的な定義としては、可視光線の全ての波長の光を均等に混合した光とされます。また、シンクロトロン放射光においては、赤外線からγ線までに至る広範な波長領域の電磁波を含む白色放射光を得ることができます。

 照明や色彩の分野では、白色光は、物理的な定義よりも、ヒトの色覚を再現できる光とされます。そのため、ヒトの色覚の基準の光となっている太陽光は、可視光線の全ての波長を厳密に均等に含んでいるわけではありませんが、白色光とみなされます。

太陽光のスペクトル
太陽光のスペクトル

 太陽光と同様にヒトの色覚を再現できる人工的な光源として、いくつかの標準光源が国際照明委員会(CIE)で定められています。現在、D65の標準の光を忠実に再現する光源はありませんが、D65の標準の光に近い光源が標準光源として使われています。注1

標準光源のスペクトル
標準光源のスペクトル

 太陽光は理想的な白色光ですが、実際には黄色い光をたくさん含んでいます。白熱電灯も黄色い光をたくさん含む白色光です。三波長形蛍光灯は赤・緑・青の光を混合した白色光を出しています。一般的な白色LEDは、青色の光を蛍光物質に当てることによって黄色い光を発光させ、青色と黄色の光を混合した白色光を出しています。これらの電灯は、さまざまな波長の可視光線を均等に含んだ光を出しているわけではありません。しかし、物体の色を再現する演色という点では、白色光と呼んでも差し支えありません。

白熱電球・三波長形蛍光灯・白色LEDのスペクトル
白熱電灯・三波長形蛍光灯・白色LEDのスペクトル

  白色光がさまざまな色の光が混合したものであることを実験で証明したのは、いイギリスの物理学者アイザック・ニュートンです。ニュートンは1666年にプリズムで太陽光を分散させ、さまざまな色の光に分解しました。さらに分解した光を再混合することで、元の白色光に戻すことに成功しました。注2

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2020年10月19日月曜日

水の色とカメラのホワイトバランス

 風呂の浴槽に水をためてカメラで撮影してみました。蛇口から出る水は透明、浴槽からあふれる水も透明ですが、浴槽の水は水色に写っています。

水はこんなに青色?
水はこんなに青色?

 水は赤色光をわずかに吸収するため、水の層が厚くなると、青みがかった色になります。そのことは「光と色と 本館」の「水は水色」「海の色は何色に見える? 海の色が違う理由は」で説明してあります。

 しかし、それにしても、この写真は水がずいぶん青色に見えます。肉眼ではこんなに青色には見えません。

 カメラで撮影すると、肉眼で見たときと色がずいぶん違うことがあります。カメラは機械的に色を感知していますが、私たちの脳は周りの色も判断して色を見ています。ですから、状況によってカメラで設定されているホワイトバランスでは、私たちが見ている色を再現でいない場合があります。

 さて、肉眼で見た浴槽の水の色ですが、カメラのホワイトバランスを調整して撮影してみました。 次の写真の左側が元の写真、右側が水の色が肉眼で見たときと同じ色合いになるようにホワイトバランスを調整した写真です。これでけ水の色が変わります。左の写真はバスタブの色も少し青みがかって見えます。

水の色  左:ホワイトバランス 調整なし 右:調整あり
水の色  左:ホワイトバランス 調整なし 右:調整あり

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2020年10月16日金曜日

灯りを失った信号機

 24時間休むこともなく点灯し交通整理を行う信号機。あの日、ある時間に信号から灯りが失われました。信号だけではありません。この辺りのすべての灯りが失われました。

光を失った信号機
灯りを失った信号機

 このようになった信号機を見かけるのは自然災害のときです。この信号の停電は2011年3月の東日本大震災の際の計画停電によるものでした。

 最近は自家発電装置やバッテリーを備えた信号機の設置が進んでいますが、全国の設置率は未だそれほど高くないようです(2018年 全国平均4.6%)。

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2020年10月15日木曜日

単色光|図解 光学用語

単色光とは たんしょくこう、monochromatic radiation

 単色光とは単一の振動数の光、または単一の波長の光注1のことです。単色放射ともいいます。

 例えば、430 nmの光は青色の単色光、550 nmの光は緑色の単色光、650 nmの光は赤色の単色光です。また、緑色の単色光と赤色の単色光を混色すると、黄色光が得られますが、この黄色光は2つ波長の光から成るので単色光ではありません。590 nmの光は黄色の単色光です。単色光をプリズムに通しても分散しません。

 単色光は、たとえば太陽光をプリズムで分散させ、ひとつの色の光を取り出すことによって得ることができます。世界で初めて実験で太陽光から単色光を取り出したのは、アイザック・ニュートンです。ニュートンは1666年に次の図のように2つのプリズムとスリットを使って単色光を調べる実験を行いました。一つ目のプリズムとスリットで単色光を取り出し、その単色光を二つ目のプリズムに通しても分散しないことを確認しました。


 虹色の光の帯から単色光を取り出す

 単色光と言っても、実際にはある程度の波長幅をもつ光のため、完全な単色光は実在しません。ニュートンが行ったようなプリズムの分散では、スリット幅や実験の精密さの影響を受けやすいので、取り出すことができる単色光はあくまでも近似的なものです。

 しかし、原子から出てくる線スペクトルは単色光とみなすことができます。LEDやレーザーできてからは、ほとんど完全な単色光が得られるようになりました。

 また、私たちが見ている全ての色に対応する単色光が存在するわけではありません。たとえばピンク色(マゼンタ)に相当する波長の光は存在しません。

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  • 注1 単一の波長の光の「波長」には「真空中(または空気中)の波長」という意味が暗黙の了解として含まれています。詳細は「光と色と本館」の「光の色は波長で決まる?」を参照してください。
  • JIS Z8120 単一波長の光又は一つの波長の光で代表される程度に狭い波長範囲に含まれる光。 
2020年10月13日火曜日

凸レンズの焦点距離を実験で求める方法

【問題】
ここに焦点距離が不明の凸レンズがあります。この凸レンズの焦点距離を求める方法を答えてください。

 多くのレンズの問題は、焦点距離がわかっていて、実像や虚像のできる位置を作図したり、レンズの公式から求めるものです。しかし、この問題では物体や実像の位置からレンズの焦点距離を求める問題です。

太陽の実像から焦点距離を求める

 「点光源|図解 光学用語」で説明した通り、物体の1点から出る光は四方八方に広がりますが、遠方では平行光となります。つまり、凸レンズから無限遠にある物体の1点から出る光は凸レンズに平行光として入ります。このとき、その物体の像は焦点距離の位置の焦平面(焦点面)にできます。

無限遠の物体の凸レンズの実像のでき方
無限遠の物体の凸レンズの実像のでき方

 凸レンズで簡単に実像を作ることができる無限遠にある光源は太陽です。次の図のようにルーペで太陽の実像を作ります。光が最も集中するところが焦点です。レンズの中心から焦点までの距離が焦点距離になります。

太陽の実像から凸レンズの焦点距離を求める
太陽の実像から凸レンズの焦点距離を求める

物体と実像のできる位置から焦点距離を求める

 次の図のような装置を用いて、凸レンズでロウソクの実像をスクリーンに作る実験をします。このとき、物体の位置を動かすと、実像のできる位置(スクリーンの位置)が変わり、像の倍率が変化します。


凸レンズでできる実像をスクリーンに映す

 凸レンズでできる実像のレンズの写像公式は次のようになります。

\begin{align*} \frac{1}{a}+\frac{1}{b}=\frac{1}{f}\;\;\; m=\frac{b}{a} \end{align*}

(a:凸レンズと物体の距離 b:凸レンズと実像の距離 f:凸レンズの焦点距離 m:倍率)

 a=bのとき、

\begin{align*} \frac{2}{a}=\frac{2}{b}=\frac{1}{f}  \end{align*}

 ですから、

\begin{align*} a=2f\;\;\; b=2f \end{align*}

となります。このとき、凸レンズの中心から物体と実像の位置はそれぞれ焦点距離の2倍になり、a=bですから倍率mは1となります。

 つまり、物体と実像の大きさが同じになるように物体とスクリーンを配置し、そのときのレンズと物体の距離もしくはレンズとスクリーンの距離の1/2が凸レンズの焦点距離になります。

\begin{align*} a=2f\;\;\; b=2f \;\;\; \mbox{のとき} \;\;\; m=1\end{align*}

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2020年10月7日水曜日

点光源|図解 光学用語

点光源とは てんこうげん point light source

 位置が定まり、大きさをもたない光源を点光源といいます。

 点光源は1点から光を出すため、光線追跡や結像など考えたり、作図をしたりするときに使われますが、現実の光源には必ず大きさがあるため、あくまでも理想的な光源ですので、実在しません。


点光源からの光の進み方を考える

 ただし、光源から受光面までの距離に対し、その大きさを十分に無視できるような光源は点光源とみなすことは可能です。

 たとえば、太陽の見かけの大きさは約0.5度ですが、太陽光で地面に手の影を作るぐらいでは、太陽を点光源とみなしても差し付かえありません。しかし、日食の時に地球の表面にできる月の影など、太陽の見かけの大きさを無視できない場合は、太陽を点光源とみなすことはできません。


太陽光による手の影(左) 日食時に地球にできる月の影(右)

図解 光学用語

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2020年10月2日金曜日

中秋の名月(芋名月) 2020年10月1日

 2020年10月1日の中秋の名月です。


中秋の名月 2020年10月1日

 旧暦では、7月を初秋、8月を仲秋、9月を晩秋としていました。そして、中秋は7月から9月の秋の真ん中の日を意味し、8月15日を意味します。ですから、中秋の名月のことを十五夜と呼びます。現在は、旧暦は使われていないので、十五夜は変わりますが、9月の中頃から10月の初めになります。2020年は10月1日が旧暦の8月15日に相当するということです。

 中秋の名月は平安時代に中国から伝わり、月見が広がりました。満月は豊作の象徴と考えられ、中秋の名月には収穫の感謝を込めて収穫物をお供えしました。里芋を供えたことから、芋名月と呼ばれることもあります。この時期は稲穂が実る時期ではないため、代わりにススキを供えたそうです。

 満月では定番のASA400、F8.0、S800で撮影しました。画像ソフトで少しだけ明るくしてあります。

 カメラはパナソニック デジタルカメラ ルミックス FZ85 ブラック DC-FZ85-Kで、光学ズーム60倍(望遠1200 mm)で撮影しました。テレコンバージョンレンズは使用していません。

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2020年10月1日木曜日

虚物体(虚光源)|図解 光学用語

虚物体(虚光源)とは きょぶったい、virtual object

 凸レンズと凸レンズ、凸レンズと凹レンズの組み合わせレンズの結像を考えるとき、1枚目のレンズでできる実像が2枚目のレンズの前方にできた場合、その実像が2枚目のレンズにとっての物体となります。その物体から出た光を用いて、2枚目のレンズでできる像の位置を求めることができます。

 一方、1枚目のレンズでできる実像が2枚目のレンズの後方の位置にできる場合、その実像を2枚目のレンズの物体として扱うことができないため、1枚目のレンズを出て2枚目のレンズに入った光が、どのように2枚目のレンズから出てくるかを考えなければなりません。

 このとき、1枚目のレンズの結像だけに着目し、2枚目のレンズでの結像を無視したときに、2枚目のレンズの後方にできるであろう1枚目のレンズの実像のことを虚物体と呼びます。物体が光源の場合は虚光源(きょこうげん、virtual source)と呼ばれる場合もあります。

 実際には、2枚目のレンズが存在するため虚物体の位置に実像はできません。しかしながら、この虚物体を考えることによって、組み合わせレンズで像ができる位置を求めることができます。実際に考えてみましょう。

凸レンズと凸レンズの組み合わせの場合

 次の図のように凸レンズL1とL2を次のように組み合わせ、L1の前方に物体をおきます。このときL2での結像を無視したとき、L1の実像がL2の後方にできる場合を考えます。この実像はL2が存在するため実際にはできないため、虚物体と呼びます。


L1でできる実像(虚物体)
 実際にはL1で屈折した光がLで屈折し、2枚の凸レンズによる実像がLの後方にきます。その実像がどの位置にできるかは、Lに入る光線を追跡すればわかりますが、次の図のように虚物体を利用しLの中心を通る光るとLに平行に入りFを通る光を考慮すると、実像の位置を簡便に求めることができます。
虚物体から実像の位置を求める(凸レンズと凸レンズ)
虚物体から実像の位置を求める(凸レンズと凸レンズ)

 物体から出てL1を通ったすべての光は虚物体に向かって進みます。このとき、Lの中心を通り、虚物体へ進む光線と、光軸に平行にLに入り、Lの後側焦点に進む光線を考えます。この2つの光線の交点がL1とL2の組み合わせレンズでできる実像の位置になります。

凸レンズと凹レンズの組み合わせの場合

 凸レンズと凹レンズの組み合わせレンズの場合も虚物体を考えることで、同様の作図で実像のできる位置を求めることができます。

 次の図のように凸レンズL1と凹レンズL2を次のように組み合わせ、L1の前方に物体をおきます。このときL2を無視したとき、L1の実像がL2の後方にできる場合を考えます。この実像も実際にはできないため虚物体です。 実際にはL1で屈折して集光する光がLで屈折して広がり、凸レンズと凹レンズによる実像がLの後方にきます。その実像がどの位置にできるかは、Lに入る光線を追跡すればわかりますが、次の図のように虚物体を利用しLの中心を通る光るとLに平行に入りFを通る光を考慮すると、すると、実像の位置を簡便に求めることができます。

虚物体から実像の位置を求める(凸レンズと凹レンズ)
虚物体から実像の位置を求める(凸レンズと凹レンズ)

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2020年9月28日月曜日

炎の色はどんな色|炎の仕組み

炎とは何か

 最初に炎とはどのようなものなのを考えてみましょう。炎は気体が燃焼するときに生じる光と熱を発している部分のことです。

ろうそくの炎
ろうそくの炎

 液体の灯油や固体の紙などが燃えるときにも炎が出ますが、これらの炎は灯油が熱で気化したり、紙が熱で分解したりして生成した可燃性気体が燃焼しているものです。炎の色は何が燃えているのか、酸素がどのぐらい取り込まれているかによって変わります。


ろうそくの炎

 ろうそくに使われているロウは主に炭素原子と水素原子からなる炭化水素化合物です。普通のろうそくはパラフィンという炭化水素化合物が使われています。

パラフィンとは

 パラフィンは化学式CnH2n+2で表すことができるアルカンと呼ばれる炭化水素化合物のうち炭素数が大きいもののことです。アルカンはパラフィン系炭化水素とも呼ばれ、炭素数の少ないものにはメタン(CH4)、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)、ブタン(C4H10)などの可燃性気体があります。

プロパンの構造式と分子式
プロパンの構造式と分子式

 ろうそくの芯に火をつけると、芯に染みこんでいたロウが熱で気化・分解して燃焼します。これが炎になります。芯の近くのロウが熱で溶けて液体となり、液体のロウが芯に染みこむので、ろうそくは燃え続けることができます。ろうそくの炎は次の図のように3つの部分からなります。

ろうそくの炎
ろうそくの炎

 炎の一番内側の部分は炎心と呼ばれます。炎心は気化したロウが存在するだけで燃焼は起きていません。

 炎心の外側は内炎と呼ばれ、この部分では燃焼が起きています。しかし、内炎の燃焼は酸素が不十分なため不完全燃焼となっており、炭素の微粒子が生じています。この微粒子は燃焼で高温となり熱放射によってオレンジ色の光を出します。これがよく見る炎の色です。

 内炎の外側は外炎と呼ばれ、この部分は酸素が十分にあるため完全燃焼となっており、ろうそくの炎の中で最も温度が高いところです。外炎は明るいところではよく見えませんが、暗い場所では見えます。この部分には、炭化水素の燃焼で生じた高エネルギーで不安定な励起状態にあるラジカルと呼ばれる形になった原子や分子あるいはイオンが存在します。ラジカルはすぐに安定した低エネルギーの基底状態に戻りますが、このとき差分のエネルギーに相当する波長の光を出します。このような発光現象をルミネセンスといいます。

 なお、熱放射で出てくる光の色は発光している物質の温度が高くなるにつれて明るい色となりますが、ルミネセンスで出てくる光の色は温度とは関係ありません。

アルコールランプの炎

 メタノールを燃やすと炎にはほとんど色がついていません。メタノールには炭素が1つしか含まれていないため完全燃焼しやすくメタノールのほとんどが二酸化炭素と水になるからです。

ガスコンロの炎

 ガスコンロに使われるガスは都市ガスではメタン、プロパンガスではプロパンが主成分です。メタンやプロパンガスは常温で気体の炭化水素化合物です。ろうそくでは、燃焼に必要な酸素は炎のまわりの空気から取り込まれます。それに対してガスコンロはガスを燃焼する前にガスと空気(酸素)を混合します。

 ガスコンロの炎にも、ろうそくの炎と同じように芯があります。この部分にはガスと酸素が一緒に存在していますが燃焼は起きていません。ガスはこの芯のすぐ外側で燃焼しますが、この部分では炭化水素から生じた不安定なラジカルが存在し、青い光を出して燃えています。ガスコンロの炎が青いのは、空気を十分に混ぜてあり、酸素が豊富だからです。同じガスでも普通の使い切りガスライターの炎では、酸素が豊富にある炎の下部は青色、酸素が不足している上部はオレンジ色になります。空気をガスと一緒に積極的に送り込むターボライターの炎は透き通った青色になります。

ガスライターとガスコロンの炎
ガスライターとガスコロンの炎

このように炎の色は酸素の量によって変わります。 酸素を十分に与えると青色の炎となり、酸素が不十分だとオレンジ色の炎になるのです。

酸素量 炎の色 燃焼しているもの
不十分 オレンジ色 炭化水素が分解して生じた炭素の微粒子
熱放射による
十分 青色 炭化水素が分解して生じた不安定なラジカル
ルミネセンスによる

酸素の量と炎の色の関係

さまざまな色の炎

 ガスコンロにみそ汁などを吹きこぼしたときに炎の色が一瞬黄色になるのを見たことがあるでしょうか。また、銅製の鍋などを使ったときに炎が一瞬青緑色になる場合があります。

 これらの場合、みそ汁に含まれている食塩中のナトリウムや鍋に使われている銅の金属元素が炎の色の元となっています。高温で励起状態となった元素が、基底状態に戻るときに、その元素特有の色の光を出します。これを炎色反応といいます。

 ガスコンロの炎の中で針金などの先につけた銅線や食塩を炎の中に入れてみると簡単に炎の色を変えることができます。身近なところで炎色反応を利用したものは花火です。

 花火は赤色や緑色など様々な色を出しますが、花火の火薬には炎色反応で色を出す物質が着色剤として含まれています。

着色剤 炎の色 元 素
食塩 オレンジ色 ナトリウム
硫酸銅 青緑色
ホウ酸 緑色 ホウ素
塩化カルシウム 橙色 カルシウム
塩化リチウム 深赤色 リチウム

主な着色剤と炎の色

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