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2026年2月10日火曜日

染料と顔料|図解 光学用語

染料と顔料(せんりょうとがんりょう Dye and Pigment)

 染料と顔料はどちらも着色剤です。染料と顔料の大きな違いは水や油などの溶媒に溶けるか溶けないかです。溶媒に溶かして使われるものが染料、溶媒に分散させて使われるのが顔料です。

染料と顔料の違いを説明する図。左は染料が溶媒に溶けて繊維に染み込む様子、右は顔料が溶媒に溶けず粒子が繊維表面に固着する様子を示す。
染料と顔料の着色の仕組みの違い

染料とは

 染料は主に紙や布の染色に使われる他、食品やプラスチックの染色などに使われます。染料は溶媒と一緒に染色する素材に染みこんで素材と化学結合するため色落ちしにくい着色剤です。染色するときには無色で、染めた後に化学反応などで発色させるものもあります。

 染料には天然染料と合成染料がある。天然染料は古くから利用されており、植物や昆虫などから抽出した色素が使われます。合成染料は19世紀の半ばに発明されました。

顔料とは

 顔料はインク、絵の具、塗料などに使われます。顔料はものの表面に塗って固着します。またプラスチックやゴムにねりこんで補強剤として使われるものもあります。

 顔料には天然顔料と合成顔料があり、さらに無機顔料と有機顔料に分けられます。天然の無機顔料は人類が初めて利用した着色剤であり古代壁画にも使われました。天然の有機顔料は染料を溶媒に溶けないような構造にしたレーキ顔料などがあります。合成無機顔料は18世紀初めに発明されて以来、様々な種類のものがあります。

色材の混色は色の三原色の減法混色

 色材の混色によって色を作る操作は色の三原色の減法混色によるものです。色の三原色の原理と仕組みを理解するには、ヒトの色覚の仕組みや光の三原色についての知識が必要です。光の三原色、色の三原色、加法混色、減法混色、色が見える仕組みについては「光と色と」の本館の次のページで詳しく説明しています。

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2026年2月7日土曜日

白色LED|図解 光学用語

白色LED(はくしょくえるいーでぃー White LED)

白色LEDとは

 白色LED(White Light Emitting Diode)は半導体を用いて白色光を発光させる素子です。当初、LEDは赤・黄・緑などの単色光しか出すことができませんでしたが、1990年代に青色LEDが実用化されると、波長の短い高エネルギーの青色光が得られるようになりました。そのエネルギーを利用して蛍光物質を発光させ、複数の色光を混ぜ合わせることで、ついに白色光を出すLEDが実現したのです。また、光の三原色のLEDが揃ったことで、より自然に近い色の再現ができる演色性の高い白色LEDも作ることができるようになりました。 

白色LEDの種類

現在、白色LEDには下記の3種類があります。

  • 青色LED+黄色蛍光体
    青色光で黄色光を発光する蛍光体を刺激します。補色の関係にある青色光と黄色光を混ぜることで白色光を作ります。低コストで効率が良いため、照明や液晶ディスプレイのバックライトとして広く使われています。
  • 赤・緑・青(RGB)の3色型LED
    光の三原色のLEDを並べて発光させ白色光を作ります。三色の明るさの調整ができるため白色光以外の色光を出すこともできますが、回路が複雑で高価です。
  • 近紫外/紫色LED+RGB蛍光体
    エネルギーの高い紫外線もしくは紫色光で光の三原色を出す蛍光体を刺激します。蛍光体が出す光の三原色の混色により白色光を作ります。太陽光に近い演色性の高い光を作れますが、現時点では効率面で課題が残っています。

一般的な白色LED(青色LED+黄色蛍光体)の仕組み

 現在、照明や液晶ディスプレイのバックライトとして広く普及しているのが、青色LEDチップと黄色蛍光体を組み合わせた方式です。青色LEDチップで高エネルギーの青色光を発生させます。その青い光がチップを覆う黄色蛍光体の層を通過します。このとき蛍光体は青色光で刺激され黄色光を発光します。青色と黄色は補色の関係にあるため、この2つの光が混ざり合うと色を失って白色光となります。

青色LEDチップから出た光が黄色蛍光体の層を通り、青と黄の光が混ざって白色光になる仕組みの図解
一般的な白色LED(青色LED+黄色蛍光体)の発光プロセス

 この方式の白色LEDの最大の利点は1つのチップと蛍光体という簡単な構造で白色光を作ることができることです。少ないエネルギーで効率よく明るい白色光が得られます。製造コストも抑えられるため白色LEDの主流となりました。

白色LED(青色LED+黄色蛍光体)のスペクトル

 白色LEDの光の成分を調べるためCDの裏面による回折と干渉を利用して分光実験をしてみました。するとこの白色光には青色と黄色の他に緑色や赤色の光が含まれていることがわかりました。

CDの裏面を利用して白色LEDの光を分光した様子。反射した光が虹色に分かれ、青や緑、赤が含まれているのが見える
CDの裏面を利用して白色LEDの光を分光した様子

 CDでは含まれている色がわかりにくいので分光器についていた光学部品の回折格子(グレーティング)で分光してみました。連続スペクトルの中に青色光、青緑色(シアン色)、緑色、黄色、橙色、赤色の光が存在していることが視認できました。

回折格子(グレーティング)によって白色LEDの光を鮮明に分光した様子。左から青、シアン、緑、黄、橙、赤へと連続的に変化する光の帯が確認できる
回折格子による白色LED(青色LED+黄色蛍光体)の分光の様子

 さらに詳しく調べるため分光器を使って発光スペクトルを測定してみました。波長465 nmの青色光の鋭いピークと、560nmを中心とした黄色蛍光体の幅広いピークで構成されていることがわかります。

白色LEDの発光スペクトル図。465nm付近に青色LEDの鋭いピークと、560nmを中心とした幅のある黄色蛍光体のピークで構成されている
分光器で測定した白色LEDの発光スペクト

  白色LED(青色LED+黄色蛍光体)は補色の関係にある青色光と黄色光で作られた白色光ですが演色性は悪くありません。その理由は黄色蛍光体が幅広い波長範囲の光を発光しているからです。上図の発光スペクトルを可視光線のスペクトルで塗りつぶしてみました。黄色蛍光体が560 nmを中心とした緑から赤までの幅広い範囲の光を発光していることがわかります。そのため私たちは白色LED(青色LED+黄色蛍光体)で照らされた物体の色を自然に近い色で認識できるのです

白色LEDの発光スペクトル。グラフの内側が虹色のグラデーションで塗りつぶされており、青色LEDの鋭い光と、緑から赤まで広くカバーする蛍光体の光が合わさって白色を作っていることを示している
可視光の波長成分と白色LEDが発光する波長成分を示したスペクトル

白色光源の発光スペクトルの比較

 私たちの身の回りにはさまざまな白色光源があります。それぞれの光がどのような成分の光を発光しているか、代表的な3つの光源で比較してみましょう。

白色LED、白熱電灯、三波長形蛍光灯の発光スペクトルの比較図。右肩上がりの白熱電灯、鋭い数本のピークを持つ蛍光灯、2つの大きな山を持つ白色LEDが発光する光の成分の違いを示している
白色LED、白熱電灯、三波長形蛍光灯の発光スペクトルの比較
  • 白熱電灯(赤色の線)
    白熱電灯(白熱電球)は波長が長くなるほど(赤色に近づくほど)発光強度が大きくなる白色光を発光します。発光原理は熱放射によるものです。太陽光と同様に全ての波長を連続的に含んでいるため演色性が高いのが特徴です。
  • 三波長形蛍光灯(緑色の線)
    三波長形蛍光灯は赤・緑・青の光を混合した白色光を発光します。発光原理は電界発光(エレクトロルミンセンス)によるものです。紫外線で赤・緑・青の3つの蛍光体を刺激するこで光の三原色を発光させるため蛍光灯としては演色性が高いのが特徴です。フルカラーLEDまたはRGB LEDとも呼ばれます
  • 白色LED(青色の線)
    これまでに見てきた通り青色光と幅のある黄色光を混合した白色光を発光します。発光原理は電界発光(エレクトロルミネセンス)によるものです。効率の良さと実用的な演色性をバランスよく両立しているのが特徴です。

さらなる演色性を求めてー3色型LEDの仕組み

 青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせた白色LEDに対して、3色型LEDは光の三原色である赤(R)・緑(G)・青(B)の独立した3つのLEDの光を混合して白色光を作ります。蛍光体やフィルターを使用せず光の三原色の光源を利用しているため、それぞれのLEDの出力を調整すれば白色光のみならず様々な色を自在に作ることができます。

光の三原色による混色の原理と仕組みについては次のページを参照してください。

 3色型LEDは赤(R)・緑(G)・青(B)の3色のチップがひとつになったものが主流になってきました。3つのLEDが1つで済み、単位画素あたりの三色光を増加させることができるため、明るくなり、色ムラが少なくなります。

3色型発光ダイオードの仕組み図。左側に独立した赤・緑・青のLEDチップがあり、それらが1つのパッケージにまとめられ、最終的に多数配置されて混色されるプロセスを描いている
光の三原色(RGB)を利用した3色型LEDの構造

 最近は従来の3色LEDより小型のMini LEDが使われるようになっています。MiniLEDは数千~数万個の極小LEDで作られたバックライトです。MiniLEDによって高輝度なディスプレイを実現できるようになりました。また光漏れを最小限に抑えることができるためLEDを消灯させたときに綺麗な黒を再現できるためコントラストも飛躍的に向上しました。

 街中でよく見かける大型ディスプレイ(LEDビジョン)は3色LEDをバックライトとして利用しているのではなく、光の三原色の混色で色を作り出しています。ダイレクトビューLEDディスプレイや自発光型LEDディスプレイと呼ばれています。

 LEDそのものの発光原理と仕組みを知りたい方は下記のページをご参照ください。

LEDが光る仕組み

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2026年2月5日木曜日

白熱電球|図解 光学用語

白熱電球(はくねつでんきゅう、Incandescent light bulb)

白熱電球とは

 白熱電球は熱放射を利用し電気エネルギーをいったん熱エネルギーに変換してから光を得るタイプの電灯です。白熱電球の発明と言えば一般に米国の発明家トーマス・アルバ・エジソンという説が広まっていますが、世界で初めて電球を発明したのはイギリスの科学者ジョセフ・スワンです。スワンの電球はサイズが大きく寿命が短かかっため実用的ではありませんでした。

白熱電球の写真
白熱電球

白熱電球の構造と仕組み

 白熱電球の構造は次の図の通りです。電球内は一般にアルゴンと窒素を混合した不活性ガスが封印されています。フィラメントに電流を流すと白熱発光します。

白熱電球の構造を示した図
白熱電球の構造

 フィラメントは非常に高い温度になるため使用時間が経過するにつれて酸化・蒸発し、次第に細くなっていきます。長期間使用すると断線してしまいます。よく「電球が切れた」というのは、フィラメントが断線したことをいいます。

フィラメントの開発が白熱電球を実用的にした

 エジソンが日本の真竹から取り出した繊維を電球のフィラメントに利用したという話は有名です。エジソンが最初に使ったフィラメントは木綿糸を炭化させたものでした。この電球の寿命は45時間しかありませんでした。エジソンはフィラメントの寿命を長くできる材料がないかを捜しました。ある日、エジソンは扇子に使われていた竹をフィラメントとして使ってみました。すると電球が200時間も光り続けたのです。エジソンは世界中に人を派遣し、電球のフィラメントとして最適な竹を探しました。そして、およそ1200種類の竹の中から京都の八幡男山の真竹を選びました。真竹のフィラメントは径が細く電灯の点灯と消灯がたやすくなりました。また、電球の寿命は2450時間にもなりました。当時主流だったガス灯に匹敵する白熱電球を生み出すことができたのです。エジソンは実用的な電球を開発したのです。

フィラメントを長持ちさせる仕組み

 現在、フィラメントとして広く使われているのは金属のタングステンです。タングステンは融点が3382 ℃で高温度に耐えることができます。しかし、タングステン製のフィラメントも長時間使用しているうちに少しずつ酸化・蒸発していきます。この酸化・蒸発を抑えつつ、さらに高い温度をかけることができれば、より明るくて寿命の長い電球を作ることができます。そのために、最近の電球にはアルゴンや窒素などタングステンと化合しないガスが封入されています。フィラメントも改良が施され、より明るくて太陽の光色に近く、かつ寿命の長い電球ができるようになりました。

白熱電球の光のスペクトル

 白熱電球の発光スペクトルはフィラメントの熱放射による連続スペクトルです。次の図のように紫色から赤色までの波長の光を切れ目なく含んでいます。赤色系の光の強度が高く、暖かみのある黄色や赤色の光となります。エネルギーの大部分は赤外線として放出されます。 

白熱電球の発光スペクトルの図
白熱電球の発光スペクトル

 白熱電球はすべての可視光波長を含んでいますが、太陽光(D65)と比較すると青色成分が少ないのが特徴です。理想的な白色光の定義については「白色光|図解 光学用語」で詳しく解説しています。

白熱電球は発光効率が悪い

 白熱電球は構造が簡単な反面、光を得る効率は極めて低く電気エネルギーのほとんどが熱エネルギーとして失われてしまいます。それが証拠に点灯している電球はやけどするほど熱くなっています。

 白熱電球の発光スペクトルから分かる通り、可視光線より長い波長の赤外線を膨大に放出しています。光は波長が長いほど光子1個あたりのエネルギーは小さくなりますが、熱エネルギーは波長が長いほど大きくなります。具体的なエネルギー値の計算は光と色と本館「光のエネルギーの計算(公式の導出と波長・振動数・eVの変換)」を参照してください。

 白熱電球は発光効率が低いため地球温暖化防止の観点から使用されなくなりました。電球型蛍光灯やLED電球に積極的に置き換えられています。

 フィラメントを加熱して光を得る白熱電球に対し現在主流となっている白色LEDは、青色LEDと黄色蛍光体の補色の組み合わせで効率よく光を作り出しています。補色の仕組みについては補光と色と本館「光の三原色」と「色の三原色」の原理と仕組み|色が見える仕組み(7)」を参照してください。

よくある質問(FAQ)

Q:白熱電球のスペクトルの特徴は?

A:白熱電球は可視域全域にわたる連続スペクトルを持ち、波長が長くなる(赤色に近づく)ほど光のエネルギーが増大する右肩上がりの特性を持っています。これはフィラメントの熱放射によるもので、太陽光に比べて赤色成分が多く、青色成分が少ないのが特徴です。

Q:なぜ白熱電球は暖かい色がするのですか?

A:白熱電球の光は、フィラメントを高温に熱した際に発せられる熱放射を利用しています。スペクトル分布が長波長(赤側)に偏っているため、私たちの目には温かみのあるオレンジ色(電球色)として認識されます。

Q:白熱電球とLEDのスペクトルの違いは何ですか?

A:白熱電球が全波長をなだらかに含む「連続スペクトル」であるのに対し、一般的な白色LEDは青色LEDの鋭いピークと黄色蛍光体の広い山を組み合わせた「擬似白色」です。白熱電球の方が演色性に優れますが、赤外線(熱)としてのエネルギー放出が多いため発光効率は低くなります。

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2026年1月30日金曜日

光の三原色で作れない色とは?RGBによる色の再現の限界

最終更新日:2026年1月31日

目次|光の三原色で作れない色

光の三原色で全ての色を再現できるのか

 ディスプレイ技術が飛躍的に発展し、私たちが目にする映像はかつてないほど鮮明になりました。高解像度の4Kや8Kのディスプレイに表示されている映像を見ていると、私たちは「ディスプレイを通じてあらゆる色を見ることができている」と思いがちです。

高解像度ディスプレイに映し出された真夏のヒマワリ畑。この鮮やかな景色も光の三原色(RGB)が作り出した色の世界に過ぎない。
高解像度ディスプレイに映し出された真夏のヒマワリ畑。
この鮮やかな景色も光の三原色(RGB)が作り出した色の世界に過ぎない。

 しかし、映像がどんなに鮮明になっても、光の三原色RGB)で作られた色は後述する再現できない色の領域(色域ガマット)が存在します。実際、ディスプレイに映し出された美しい景色を見て、どこか「自然の中で直接見ている景色の色とは少し違う」と感じたことはありませんか? この違和感こそが光の三原色(RGB)による色彩の再現の限界なのです。

なぜ作れない色が存在するのか?

 私たちが日常で認識している色とは光源が発する光や物体が反射する光の色です。そして、色の基準となるのは私たちの世界を照らしている太陽光です。 すべての色を再現できるということは、太陽光に含まれる光や物体が反射する光の色の色調をありのまま再現できるということを意味します。

 しかし、現代のディスプレイは太陽光に含まれるすべての可視光線から作られる色を映し出す仕組みではありません。バックライトが発する白色光からカラーフィルタを使って取り出した赤(R)・緑(G)・青(B)の光や、あるいは赤(R)・緑(G)・青(B)3つの独立した光源の光で色を合成しています。色を作成する光が限られているためディスプレイの色の再現には限界があるのです。

太陽光に含まれる可視光線と光の三原色(RGB)の色の比較
太陽光に含まれる可視光線と光の三原色(RGB)の色の比較

なぜ3色(RGB)の光で色を再現できるのか?

 そもそも3色の光で私たちが見ている多くの色を再現できるのでしょうか。その理由は私たちヒトの色覚に関係しています。眼の網膜には光のエネルギーの刺激を受けて反応する桿体細胞と錐体細胞と呼ばれる視細胞が存在します。桿体細胞は暗い場所で光の強弱を感じ、錐体細胞は光のエネルギーの大きさの違いを捉えて色を識別します。錐体細胞は動物によって異なりますが、ヒトの網膜には長波長の光に反応するL錐体(赤色錐体)、中波長の光に反応するM錐体(緑色錐体)、短波長の光に反応するS錐体(青色錐体)の3種類の錐体細胞が存在します。

ヒトの眼球の断面図と、網膜の視細胞を拡大したイラスト。光が視神経側から入り、黄斑部に集中する錐体細胞と、網膜全体に広がる桿体細胞に届く仕組みをカラーで解説している図解
ヒトの眼の構造と視細胞(錐体細胞・桿体細胞)

 光は波長が短いほど高エネルギーで波長が長いほど低エネルギーです。それぞれの錐体細胞が受けた刺激の割合は視神経を通じて脳に送られます。脳は3種類の錐体細胞の刺激の割合から色を認識します。つまりヒトの色覚は目に入ってきた光の物理量であるエネルギーを生理現象で生じる色に変換しているのです。

左側にバナナ(物体)、中央にヒトの眼の構造図、右側に脳のイラストを配置した図解。物体からの光が眼に入り、視神経を通って脳に伝わり、色や形として認識されるまでの一連の流れを説明している
視覚と色彩認識のプロセス

 私たちはあらゆる光の色を3種類の錐体細胞の刺激の割合で認識しています。ですから、虹の中に存在する単色光の黄色、光の三原色の赤色と緑色を混色してできる黄色、物体からの反射光の黄色を同じプロセスで認識します。つまり3種類の錐体細胞を刺激の割合が同じであれば光の成分が異なっていてもほぼ同じ色と認識することができるのです。

 このヒトの色覚の仕組みを巧みに応用して光の三原色(RGB)で色を再現しているのがディスプレイです。この巧みな応用こそが同時に色の再現の限界を生じる原因にもなっているのです。なぜなら、光の三原色(RGB)での色再現は、ある意味で脳を騙しているようなものだからです。例えば、太陽の下で見るバナナの黄色と、画面に映し出されたバナナの黄色はほぼ同じ黄色に見えても、目に入ってくる光は別物です。実際に同じように見える色でも光の成分が異れば、錐体細胞の刺激の割合も厳密には異なるのです。

光の三原色(RGB)が抱える色再現の限界

 赤(R)と緑(G)の光を同じ強さで混ぜると、その中間の黄色(Y)が生じます。このとき赤(R)を強く、緑(G)を弱くするとオレンジ色が生じます。2色による混色で混ぜて作ることができる色は必ず元となる2つの色を結んだ直線の上にしか現れません。なぜなら、そこには他の色は成分として含まれないからです。

 赤(R)と緑(G)に青(B)の光を加えてみましょう。すると3色の混色で生じる色は赤(R)と緑(G)の直線、赤(R)と青(B)を結んだ直線、緑(G)と青(B)を結んだ直線に囲まれた面、すんわち三角形の領域になります。これが光の三原色(RGB)で再現できる色域(ガマット)です。ディスプレイが表現できる色の世界はこの3点を頂点とした三角形の内側に固定されてしまうのです。

 言葉だけでは実感が湧きにくいかもしれません。実際に3つの光の出力を操作して、色がどのように三角形の領域で作られていくのか以下のシミュレーターで体験してみてください。2つの色光だけで作れる色は常にその直線上の中間にあり、3つ目の色光が加わって初めて色が面として広がることが体感できると思います。

私たちが認識できる色域(ガマット)は?

 私たちが認識できるすべての色は一体どのような形の色域(ガマット)をしているのでしょうか。それを科学的に定義したものが国際照明委員会(CIE)が1931年に「可視光とヒトの色覚における色との定量的関係」を規格化したCIE 1931 色空間です。

 CIEは次の図のような実験装置を用いてヒトが認識しているすべての色を光の三原色(RGB)で再現する規格「CIE RGB 色空間」を作成しました。

CIE 1931色空間の規格化のために行われた等色実験の模式図。試験光と光の三原色(RGB)で作成した色をスクリーンに投影し、ヒトが同じ色に見えるかどうか確認している様子が描かれている。
CIE 1931 等色実験の装置の模式図

 この等色実験により光三原色(RGB)の加法混色で色を作成すると彩度が高い光は再現できないことがわかりました。たとえば単色光のシアンの色は光の三原色の緑(G)と青(B)の混色では再現できなかったのです。単色光のシアンの光に赤(R)を加えると、緑(G)と青(B)で作ったシアンの光と同じ色になりました。

 ヒトの3種類の錐体細胞はそれぞれの反応する範囲が大きく重なり合っています。たとえば単色光のシアンの光と三原色(RGB)の緑(G)と青(B)の混色で作成したシアンの光では錐体細胞の反応が異なります。そのため単色光のシアンを光の三原色(RGB)では厳密に再現できないことがわかったのです。

 そこでCIEはRGB 色空間をもとに計算によってヒトが認識できるすべての色を表したCIE XYZ色空間の規格を作りました。この色空間は等色から理論的に導かれたものであり、光の三原色(RGB)で色を再現する実在のディスプレイ装置などには依存しません。

CIE 1931 xy 色度図。ヒトの目が見分けられる色の範囲(色域)を2次元のxy座標上にプロットした馬蹄形のグラフ。外縁の曲線は純粋な単色光の波長を示し、中心の白色点に向かって色が淡くなる様子が描かれている。
CIE 1931 xy 色度図

 CIE 1931 xy 色度図は、ヒトの色覚で認識できる色域(ガマット)を2次元のxy座標上にプロットした馬蹄形のグラフです。外縁の曲線は純粋な単色光の波長を示します。下部には波長表示がありませんが、この部分はヒトが認識できる色のうちマゼンタなど単色光に存在しない混色で生じる色光です。グラフの中心に向かうほど色が淡くなります。中心は白色点と呼ばれ、太陽光に近い白色光に相当する位置になります。

 前述の通り実際の光の三原色(RGB)の混色で作ることができる色域(ガマット)はCIE 1931 xy 色度図にはなりません。次の図はCIE 1931 xy 色度図私たちが日常的に使っているディスプレイの規格の色域を重ねたものです。 図中の小さな三角形が一般的なディスプレイで使われている標準規格 sRGB の色域(ガマット)です。そして、それより一回り大きいのが印刷やプロ向けの規格 Adobe RGB の色域(ガマット)です。いずれの三角形もヒトの色覚の限界である馬蹄形の外縁には届かず、特に緑から青にかけての領域が大きく欠けていることがわかります。

CIE 1931 xy 色度図の上に、sRGB(内側の小さな三角形)と Adobe RGB(外側の一回り大きな三角形)の範囲を重ねた図。いずれの三角形も馬蹄形の外縁(ヒトの色覚の限界)には届かず、特に緑から青にかけての領域が大きく欠けていることを示している
色域(ガマット)の比較:sRGB と Adobe RGB

 この図からわかる通り最高級のディスプレイを使ったとしても、RGBの三角形内部の色域(ガマット)に存在する色しか再現できないのです。とりわけ馬蹄形の外縁の鮮やかな緑やシアンやマゼンタは再現できません。そのため、たとえば綺麗なエメラルドグリーンの海の映像を見ても、どこか本物の色と違う、鮮やかさが物足りないと感じるのです。

光の三原色(RGB)で作れない色とは?

 光の三原色(RGB)による色覚の再現は極めて合理的で効率的ですが、自然界が持つ無限の色の多くを切り捨ててしまっているのです。どんなに技術が進歩しても、光の三原色(RGB)で色を再現する限り、この馬蹄形の豊かなカーブの外縁の色を見ることはできません。ですから、この三角形の織に閉じ込められている光の三原色(RGB)の色域では自然界に存在するすべての色を再現することはできないのです。具体的に光の三原色で作れない・表現が困難な色は以下の通りです。

  • 高彩度の色:自然界に存在する鮮やかな色
  • 完璧な黒色:光の三原色(RGB)は混ぜると白(白色光)に近づく加法混色のため、混色で黒を表現することはできません。光を消灯すると黒になります。
  • 光の三原色(RGB):赤(R)、緑(G)、青(B)は原色ですから混合で作ることはできません。

 私たちが眺めているディスプレイの色は、自然界の広大な色域(ガマット)に比較すると、ほんの一部を切り取った三角形の檻の中に過ぎません。クリエイターたちは、この限られた色域の中で、いかに本物の色を再現させるかという試行錯誤を繰り返してきました。彩度が足りなければコントラストで補い、特定の色が作れなければ隣接する色と調和させるなどの工夫をしています。

光の三原色(RGB)の制限は超えられるのか?

 この光の三原色(RGB)の三角形の檻の中から抜け出す方法はあるのでしょうか? 私たちは自然界の広大な色彩を再現することはできないのでしょうか。実はこの不可能性への挑戦こそが現在のディスプレイ技術の最先端となっているのです。

 第一の方法は光源の多原色化です。光の三原色(RGB)では三角形の檻しか作れませんが、原色の数を増やすことで、その形を四角形、五角形へと広げることができます。その結果、CIE xy 色度図の馬蹄形の外縁に近づけることができます。次の図はCIE 1931 xy色度図上で従来のsRGB(三角形)に黄色(Y)を追加し、色域が四角形に広がった様子を示した図です。特に緑から赤にかけての再現範囲が拡大していることがわかります。わずかな面積の広がりですが、冒頭のひまわりを本物に近い色で表現できるようになります。

CIE 1931 xy色度図上で、従来のsRGB(三角形)に黄色(Y)の頂点を追加し、色域が四角形に広がった様子を示す図。特に緑から赤にかけての再現範囲が拡大している。
4原色(RGBY)による色域の拡張の例

 実際に、かつてシャープが黄色(Y)を加えたRGBYの4原色で色を再現できるディスプレイ AQUOS クアトロン を開発し販売していました。残念ながら主流とはならなかったため販売は終了していますが、当時としては色域(ガマット)を広げる画期的な試みでした。最近では商業施設や映画館などで6原色以上の光源を用いることで、より実物に近い色彩を再現する多原色プロジェクターが開発されています。

 第二の方法は、3原色の数は変えずに3点の位置を馬蹄形の外縁に押し広げる手法です。つまり最新の光源を利用して原色の純度を向上することです。現在の超高精細放送(4K/8K)のBT.2020規格では最新の光源を用いて xy 色度図の75.8%まで色域(ガマット)を広げています。最新の光源には次の3種類が存在します。

  • RGBレーザー: 光の純度が極めて高く、非常に鋭いピークの単色光を得られるため、BT.2020の色域をほぼ100%カバー可能です。まさに究極の光の三原色(RGB)の光源です。
  • 量子ドット (Quantum Dot): 青色LEDの光を特定の波長だけを強く発光させる特殊な結晶に当てることで高純度なRGBを発光させます。現在の高画質ディスプレイの主流となりつつある技術です。
  • 有機EL (OLED): 素子自体が発光するため鮮やかな発色が可能です。しかし、BT.2020企画を満足させるためにはさらなる新材料の開発が必要です。

真実の色をめざして:理論と想像力が作る色彩文化

 どれほど技術が進化してもCIE xy 色度図の色域を完全にカバーすることは困難です。しかしながら、最終的に色を認識しているのは脳です。私たちの脳には不完全な情報を補完する能力が備わっています。ですから物理的な条件が揃わなくても、たとえば画面上に鮮やかなシアンの単色光が存在しなくても、光のハイライトやコントラストを工夫することによって鮮やかなシアンを脳に認識させることができます。そういう意味では現実に忠実であること以上に、人間の記憶に存在する理想の色を呼び覚ますことこそがリアリティの追求と言えるかもしれません。

左側には数学的な数式と色度図のグラフが描かれ、右側に向かってそれらが鮮やかな光の粒子と絵画的な色彩の爆発へと溶け込んでいくイメージ画像。デジタル技術の理論と人間の想像力の融合を表現している。
真実の色をめざして:理論と想像力が作る色彩の世界

 映画、写真、絵画、アニメなどの色彩は決して自然界の単なるコピーではありません。そこには三角形の檻の限られた領域の中でいかに心を動かす色を再現するかというクリエーターの強い意志が介在しています。完璧な再現ができないからこそ生まれるのが表現のゆらぎです。その隙間を私たちの想像力が埋めることで色彩の文化が成り立っているのです。

1964年、パリのガルニエ宮=オペラ座にマルク・シャガールが描いた新しい天井画が設置されました。14人の作曲家によるオペラの場面が描かれています
シャガールの天井画(マルク・シャガール、1964年、パリのガルニエ宮=オペラ座)
Author:Ninara from Helsinki, Finland

よくある質問(FAQ)

Q:RGBの三原色ですべての色を再現できないのはなぜですか?

A:ヒトの3種類の錐体細胞はそれぞれの反応する範囲が大きく重なり合っています。たとえば単色光のシアンの光と三原色(RGB)の緑(G)と青(B)の混色で作成したシアンの光では錐体細胞の反応が異なります。そのため単色光のシアンを光の三原色(RGB)では厳密に再現できないのです。

Q:RGBの制限を克服する技術にはどのようなものがありますか?

A:レーザー光源や量子ドットを用いて色の純度を高め再現範囲を広げる技術や、RGBに他の原色を加えた多原色表示などがあります。

Q:物理的に再現できない色を、人間はどのように認識していますか?

A:物理的にディスプレイで再現できない色であっても人間の脳は周囲のコントラストや光のハイライトなどの情報を利用して記憶にある理想の色を補完して認識する能力を持っています。

【あわせて読みたい:色彩の深淵へ】

本館「光と色と」ではこの記事のベースとなった色彩の基礎知識を多数公開しています。 光と三原色の基本については次の記事を参照してください。

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2026年1月26日月曜日

ケミカルライトが光る原理と仕組み

ケミカルライトとは

 コンサートやパーティーなどで使われるケミカルライト(Chemical Light)。最近はいろいろな色のものが手に入るようになりました。ケミカルライトは化学発光(化学ルミネセンス)によるライトの総称です。サイリューム、シアリウム、ルミカライトなどと呼ばれる場合もありますが、これらは登録商標です。

光の三原色のケミカルライト
光の三原色のケミカルライト

ルミネセンスとは

 物質は原子からできています。原子はプラスの電気をもつ原子核とマイナスの電気をもつ電子からできています。通常、原子は原子核と電子の電荷がつり合った安定したエネルギー状態を維持しています。このとき電子のエネルギー状態は安定した基底状態にあります。原子が外部から何らかのエネルギーによる刺激を受けると、電子のエネルギー状態が高くなり励起状態となります。励起状態となった電子は直ちに安定した基底状態に戻ります。このとき電子は励起状態と基底状態の差分のエネルギーを放出します。この差分のエネルギーが可視光線のエネルギーに相当するとき目に見える光が出てきます。このような発光現象をルミネセンスといいます。ルミネセンスは電子を励起状態にする刺激をつけて区別します。例えば、蛍光灯のように電気エネルギーを使うものはエレクトロルミネセンス、ケミカルライトのように化学反応で生じたエネルギーを使うものはケミカルルミネセンス、ホタルのように生物によるものはバイオルミネセンスと呼ばれます。光を当てると蛍光を出す塗料は、光を刺激に使っているのでフォトルミネッセンスと呼ばれます。

ルミネセンスの原理:励起状態となった電子は直ちに安定した基底状態に戻る。このとき電子は励起状態と基底状態の差分のエネルギーを放出する。
ルミネセンスの基本原理

 ケミカルライト以外に有名なケミカルルミネセンスとしてはルミノール反応が知られています。またホタルなどの生物発光も化学発光の一種です。ルミノール反応の原理と仕組みについては次のページを参照してください。

反応機構

 ケミカルライトのスティックの中には2つの液体が別々に入っていて、スティックを折ることによって混合します。片方の液体は光のエネルギーの元になるシュウ酸ジフェニルと蛍光色素(dye)と反応を進めるための物質(触媒)の混合物です。もう片方の液体は過酸化水素水です。

 シュウ酸ジフェニルと蛍光色素 (dye) と触媒の混合物と過酸化水素が混ざると、シュウ酸ジフェニルが過酸化水素で酸化されて分解し、フェノールと過シュウ酸エステル(ROOC-COOOH)を経て1,2-ジオキセタンジオンが生じます。1,2-ジオキセタンジオンは分解して二酸化炭素となりますが、このときに蛍光色素にエネルギーを与えます。励起状態となった蛍光色素はすぐに基底状態に戻りますが、このとき差分のエネルギーを光 (hν) として放出します。

シュウ酸ジフェニルと過酸化水素との酸化→1,2-ジオキセタンジオンの分解と色素の励起
→色素の緩和による発光
ケミカルライトの化学発光の反応式

光の三原色の混色の原理で様々な色を作れる

 ケミカルライトが出す光の色は使用する蛍光色素(dye)よって異なります。使用される蛍光色素にはさまざまな種類があり、それぞれ特有な色の蛍光を発します。蛍光色素を混ぜることによって別の光を作ることができます。たとえば赤・緑・青の色素を混ぜると白い光が出てきます。これは光の三原色の加法混色によるものです。


光の三原色
R:赤(レッド) G:緑(グリーン) B:青(ブルー)
C:青緑(シアン) M:赤紫(マゼンタ) Y:黄(イエロー) W:白(ホワイト)

 光の三原色の原理と仕組みについて次のページを参照してください。


ケミカルライトの用途

 ケミカルライトのスティックは防水性、絶縁性に優れています。ケミカルライトは発光に酸素を必要とせず、熱をほとんど発生しません。火花や炎も出さないため水中でも利用できます。安価で使い切りできるので軍隊、キャンプ、洞窟探検、ダイビングにおいて光源として利用されています。

ケミカルライトを使う米軍兵
ケミカルライトを使う米軍兵

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