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2020年8月3日月曜日

物体が焦点の位置にあるとき実像と虚像はどうなるか

 凸レンズの前側焦点F'の外側に物体を置くと実像ができ、内側に物体を置くと虚像ができます。


凸レンズでできる実像(左)と虚像(右)

それでは、物体を前側焦点F'の位置に置くと、実像と虚像はどのようになるでしょうか?

物体が焦点の位置にあるとき実像はできるか

 物体を凸レンズの前側焦点F'の位置に置くと、物体からでた光はレンズから射出した後、平行光になります。これは物体の1点からでた光が、レンズを出た後に1点に集まらないということです。ですから、どの位置にスクリーンを置いても実像はできません。


物体を前側焦点F'の位置に置いたとき(実像を考える)

物体が焦点の位置にあるとき虚像はできるか

 上図の凸レンズを物体の反対側(後側焦点の方向)から覗くと、何が見えるでしょうか?

 レンズを出た後の光が平行光なのですから、倒立した実像を見ることができないことは明白です。

 虚像についてはどうでしょう。レンズを出た後の光は平行光ですから、反対側(前側焦点側)に延長しても1点で交わりません。そのため、この作図を見ると、虚像できないと結論づけてしまいたいところです。


物体を前側焦点F'の位置に置いたとき(虚像を考える)

 ところが、凸レンズの前側焦点F'の位置に物体を置いて凸レンズをのぞいてみると、物体が拡大された虚像が見えます。

 虚像というのは実際にできる像ではなく、目で見える像ですから、眼の働きを考えなくてはなりません。虚像がどうなるかは、次の図のように凸レンズから出た平行光が眼のレンズを通って、網膜にどのような実像を結ぶかを考えるとよいのです。

前側焦点F'に物体を置いたときに見える虚像

 眼のレンズにとって、この平行光は無限遠にある物体の1点からやってきた光と同じことになります。ですから、平行光を反対側に延長したところにできる無限遠の虚像が見えることになります。

物体が焦点の位置にあるときの虚像の倍率は

 一般に、市販のルーペの倍率は、物体を前側焦点の距離の位置に置いたときの倍率で定義されます。

 次の図は物体を明視の距離に配置したときの見え方を示したものです。


明視の距離に物体を置いたときの物体の見え方

成人の正常な眼でものがよく見える範囲は、個人差はありますが、眼から25 cm以上離れたところです。この25 cmを明視の距離といいます。

 物体の高さをyとし、物体が見える角度をθとすると、

\[y=250 tan\theta\]

 この物体をレンズを通して見ると、何倍に見えるかが、ルーペの倍率になりますが、倍率を一義的に定義するため、次の図のように、物体を凸レンズの前側焦点の位置に置くという約束があります。


ルーペの倍率

 このときルーペを目のすぐ前に置くと、凸レンズの中心と水晶体の中心が一致していると考えることができます。虚像が見える角度θ'は凸レンズの焦点距離をfとすると、次の式から求めることができます。

\[y=ftan\theta\]

 倍率mはθ'とθの比で求めることができます。これを角倍率といいます。θが小さいとき、tanθ=θとなることを考慮すると、

\[m=\frac{\theta'}{\theta}=\frac{tan\theta'}{tan\theta}=\frac{\frac{y}{f}}{\frac{y}{250}}=\frac{250}{f}\]

となります。

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21 件のコメント:

  1. 「物体を焦点距離に置いたとき、像はできない。」=「レンズを覗いても見えない。」と思っていました。でも、実際には除くと拡大された像が見える。焦点距離を測り直して何度見ても、それでも見える。なぜかとても不思議に思っていました。謎が解けてすっきりしました。とても分かりやすく書いてあるので感動しました。

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    1. > とても分かりやすく書いてあるので感動しました。
      駄文を褒めていただき、ありがとうございます。

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  2. 東京都「令和2年度児童生徒の学力向上を図るための調査」で凸レンズを使って観察する問題が出題されました。正解が間違っていと思うのですがご意見をお聞かせください。
    4⃣の(3)の問題です。焦点距離8.0cmの凸レンズを使い、アブラナを観察したとき、アブラナと凸レンズの距離として最も適切なものを選ぶ問題です。選択肢が4つあり、ア 3.0cm イ 8.0cm ウ 12.0cm エ 16.0cmです。正解は、ア 3.0cmになっています。
    しかし、凸レンズで観察した場合、アブラナを焦点距離(8.0cm)の位置においたほうが、3.0cmの位置におくより大きく観察することができるので、イ 8.0cmが最も適していると思うのですが、いかがでしょうか。
    貴殿のHPで詳しく説明されているように、凸レンズの焦点距離に物体を置いたときには、レンズを通した光は平行光線になるため虚像はできませんが、レンズを覗くと像を見ることがでるはずです。8.0cmにした方が大きく見えて細部まで観察できると思います。
    宜しくお願いいたします。

    《東京都「令和2年度児童生徒の学力向上を図るための調査」問題と解説》https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/content/files/research_and_report_r2/39_js_rika.pdf

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  3. コメントありがとうございます。4の問題は「物体を凸レンズの前側焦点の内側に置くと虚像ができる」という知識があるかどうかを想定しているだけのように思います。3センチが適切という根拠は見当たりません。中学生は無限遠の虚像の倍率を求める方法(説明のtanθ)は習っていませんが、前側焦点に物体を置くと虚像が見えるという体験はさせられるし、その知識は教えるべきと思います。学力調査ならば学習指導要領を考慮して8センチを選択肢に入れなければ問題はなかったはずですが、8センチが選択肢にあるからには、この条件で虚像が見えることを知っている生徒は8センチが適切と選ぶでしょうし、その選択の方が正しい思います。

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  4. 1の問題もルーペの使い方をウに限定してしまっていますね。観察している物体が昆虫などの生物や何らかの物質などで危険が予想される場合、目からルーペを離して観察するよう指導すべきと思います。

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  5. 虚像とは何かを理解していないと設問のような勘違いがおきやすいですね。
    実像はできるものですが、虚像は見えるものです。

    実像と虚像の違い-実像と虚像の例から考える
    https://opticaltale.blogspot.com/2020/06/blog-post_27.html

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  6. 問題の虚像の倍率は
    1/a - 1/b = 1/f  とm=b/aから求めることができますね。m=1.6になると思います。
    a=8のときはb=∞で倍率はm=250/8=31.3ですね。

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  7. 詳しい説明をありがとうございます。東京都教育委員会のHPに「お問い合わせ」欄(https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/content/research_and_report_r2.html)があったの問い合わせましたが、いくら説明しても、「中学生は、物体と凸レンズとの距離が焦点距離であるときに実像も虚像もできないことを学習しています。実際に見たときに像がぼやけて見える場合があることと、中学生の学習実態とから、イは正答としてふさわしくないため、誤答としています。」としか答えてくれません。

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  8. 実像の学習の中で物体が凸レンズの焦点の位置にあるときに像ができないと説明している教科書や参考図書はありますが、虚像については明確に像ができないと説明しているものはあまり見たことありません。今度、本屋さんで最近の学習参考書を見てみます。教科書ガイドなどの記載も参考になると思います。本屋さんに行く機会があったら是非調べてみてください。

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  9. 教育では時に話を簡素化することもありますし、それを否定するつもりはありませんが、焦点に物体を置くと虚像ができないというのは事実に反します。事実に反することを教えているのであれば改善するべきです。ただし学習指導要領にはそこまで教えることは求めていませんが・・・

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  10. 焦点に物体を置いたときの像について、教えるかどうかは学習指導要領にも記載されていないので、曖昧でもよいかと思うのですが、それを公共機関が行う「学力向上を図るための調査」に出題するのは不適切と思います。私は理科の教員ですが、今、使っている新学社の「理科ノート1年」というのには、焦点に物体をおいたとき、「像はできない」と明確に書いてあります。
    私もそうでしたが、このこのことを知らずに、焦点に物体を置くと像はできないと教えている教員は多いと思います。
     東京都教育委員会に私などが言っても相手にしてくれないし、どのようにした、改善できるでしょうか?

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  11. コメントありがとうございます。
    レンズの実像の学習では、焦点に物体を置いたときに実像はできるか?という問いを取り上げるのはとても面白いのですが、これをやると虚像の学習でも焦点に物体を置いたときに虚像はできるか?という疑問に中学生は気がつくでしょう。虚像はレンズをのぞいたときに見えるのですから、当然やってみると見えるわけです。しっかり実像と虚像を区別して教えるべきですが、焦点に物体を置いたときにはレンズから出た光が平行光となるため像はできないと、実像と虚像の区別が曖昧な説明になっています。当然、虚像はできないと誤ったことを教えてしまう先生も出てくるわけですが、これは教育をマネジメントする側にしか是正できません。ところが、その立場の組織が焦点に物体を置いたときには実像も虚像もできないと教えているという認識に立ってしまっています。知人の教育研究者には相談しました。

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  12. 相談していただき、ありがとうございます。私もずっと間違えて教えていたので、偉そうなことは言えませんが、だからこそ、訂正しなければと思うのです。問題集に間違った答えになっているもがもあるし、公なテストで出題されても問題にならないということは根が深いと思います。

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  13. 本日、本屋さんで教科書ガイドを見てきました。像ができないという曖昧な説明だけではなく、実像も虚像もできないと説明しているものが多数あり呆れてしまいました。虚像までできないとよ断言できるなと思います。

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  14. そなんですよ。調査はしてないので、私の予想ですが、中学校の教員のほとんどは、焦点距離に物体を置いたとき実像も虚像もできないと教えていると思います。わたしもそうでしたから。原因は、思考回路が「焦点に物体を置いたときの作図」→「光の道すじが平行線になる」→「光が1点に集まるところがない。」→「実像も虚像もできない」となって、1枚のレンズの作図だけ考えると疑いの余地がないからだと思います。
     教科書には、「発展」という項目がどの教科書会社の教科書にもあるので、そこに、「焦点に物体を置いたとき、実像はできない。しかし、目のレンズの作用で、平行光線も網膜に像を結ぶことができるから、虚像は見える。」という旨のことを載せるのがよい解決策かと思ます。

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  15. 光の単元の最初にものの形や色が見えることについて、光が目に入るからということを学習しますが、凸レンズの学習ではそのことを上手に結びつけることができれば。なぜスクリーンに映らない虚像が見えるのかを学習できると思います。虚像はできないという結論は実験からも得られる事実に反します。また、高校で物理を学ぶときに理解の妨げになると困ると思います。

    平行光というキーワードが「像ができない」と結びついてしまうと、いろいろと問題ですね。たとえば無限遠の物体の1点から出た光は平行光としてレンズに入りますが、焦点に垂直な面に点像ができ、ちゃんと物体の実像ができます。

    無限遠にある物体は凸レンズでどのように実像を結ぶか
    https://starfort.cocolog-nifty.com/voorlihter/2007/05/post_e06b.html


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    1. 物体を焦点に置いたときに凸レンズをのぞいて虚像を観察するとき、レンズの周辺部の収差の影響でレンズから出てくる平行光線が乱れるため虚像が正しく見えなくなることがあります。しかし、レンズに絞りの代わりとなる枠などをつけると収差が低減され虚像が見えるようになります。このあたりを考慮しない実験をしていると虚像がでいないという勘違いを増長しそうです。

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  16. まさに、その勘違いをしているかと思います。中学校では、指導要領が改定され、この4月から教科書が新しくなるのですが、新しい教科書(大日本図書)を見てみると「物体が、凸レンズの焦点にあるとき」「像はできない」と明記されています。「物体と凸レンズの距離が、焦点距離より近いとき」「虚像」が見えるとなっています。

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    1. 「発展」で物体を焦点の位置にを取り扱うのであれば「実像はできないが虚像は見える」とするか、「実像はできない」として虚像には言及しないのが良いと思います。

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  17. 次の記事を公開しました。

    中学理科凸レンズの虚像の学習の疑問点
    https://opticaltale.blogspot.com/2021/04/blog-post.html

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  18. ありがとうございます。

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