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2020年11月5日木曜日

レンズの中心を通る光線はそのまま直進するのか?

光は物質の境界面で進む向きを変える

 次の図のように平らなガラス板に光を当てると、ガラス板に垂直にあたった入射光Aはそのまま直進しますが、ガラス板に斜めにあたった入射光Bは、ガラスに入るときとガラスからでてくるときに、ガラスの表面で進む向きを変えます。このような現象を屈折といいます。一般に、光はある物質から屈折率の異なる物質に入るときに、その境界面で屈折します。

ガラス板を通る光の屈折
ガラス板を通る光の屈折

 このガラス板の表面はどの部分も平面なので、互いに平行な入射光BとB'は同じように屈折して進みます。このとき、ガラス板からでてくる射出光BとB'も平行になるため、この2つの光線が交差することはありません。入射光の角度を変えずに2つの射出光を交差させるためには、ガラス板の表面の形状を意図的に変えて、それぞれの光の進み方を変える必要があります。このような目的でガラス板の表面を加工したものがレンズといえるでしょう。

プリズムを通る光

 次の図はプリズムによる光の屈折を示したものです。プリズムに入射した光は、プリズムに入るときと、プリズムからでてくるときに、プリズムの表面で屈折します。このとき、光の進む道筋はプリズムの厚みが肉厚になる方向に折れ曲がります。

プリズムによる光の屈折
プリズムによる光の屈折

レンズを分解して考える

 レンズはたくさんのプリズムが集まったようなものと考えるとわかりやすいでしょう。次の図は細かく分解した凸レンズに入る平行光線の進み方を示したものです。レンズを分解した各々の部分がプリズムのような働きをして、光を屈折させていることがわかります。

レンズを細かく分解して光の道筋を考える
レンズを細かく分解して光の道筋を考える

 レンズで屈折する光の道筋は、プリズムと同じように、レンズの厚みが肉厚になる方向に折れ曲がります。光が折れ曲がる度合いは、レンズの周辺ほど大きくなります。レンズの作用は表面の形を変えることで決めることができます。たとえば、凸レンズは平行光線が1点に集まるように、ガラス板の表面を意図的に中心部がふくらんだ球面にしたものです。

レンズの中心を通る光線はそのまま直進するのか

 レンズの光の進み方を学ぶときに、レンズの中心を通る光線はそのまま直進すると習います。次の図は凸レンズで実像を作る様子を示したものです。

凸レンズで実像を作る様子
凸レンズで実像を作る様子

 次の図は上図の凸レンズの中心部を拡大したものです。すべての光線はレンズの表面ではなく、レンズの中心を通る垂線で折れ曲がるように描かれています。ここで、レンズの中心を通る光線に着目してみましょう(わかりやすくするため中心分を黄色い丸で囲ってあります)。レンズの中心を通る赤・緑・青の3本の光線はレンズの中心を通って、そのまま直進しています。このうち緑の光線は光軸(レンズの軸)に沿って進むので、そのまま直進するのはわかりますが、赤と青の光線はレンズに入るときと、レンズから出てくるときに、レンズの表面で折れ曲がっているはずなのに図のように描かれています。

凸レンズの中心を通る光
凸レンズの中心を通る光

 上図は前述の「レンズを分解して考える」の説明とは矛盾しています。そのため、表題の「レンズの中心を通る光線はそのまま直進するのか?」という基本的な疑問が出てくるのだと思いますが、その答えは

光軸(レンズの軸)に沿った光線はそのまま直進するが、それ以外の光線はレンズの表面で屈折するためそのまま直進しない

です。教科書などに記載されているレンズの作図は上図と同様に描かれています。このレンズの作図は正しいのでしょうか?

レンズの中心を通る光を作図してみる

 次の図はレンズの軸(光軸)から離れたところからレンズの中心を通る光の道筋を作図したものです。赤い線のようにレンズに入射するときにレンズの表面で屈折します。その後、レンズの中心を通り、レンズから射出するときに再びレンズの表面で屈折します。このようにレンズの表面で2回屈折するように描いた光線が正しい「レンズの中心を通る光」の道筋です。

 それでは、なぜこの光線を教科書などの作図では上図の青の点線のようにレンズの中心を通るように描いているのでしょうか。それは凸レンズに入る赤い光線と凸レンズから出てくる赤い光線が平行光線になっているからです。赤い光線と青い光線の経路は異なりますが、出発点と到着は同じです。ですから、レンズの軸(光軸)から離れたところから入射し、レンズの中心を通る光線については青い点線のように描くことができるのです。実像や虚像の作図には影響しないのです。しかし、どのような場合でもこのような作図をして良いのかというと、そうではありません。ある条件があります。

レンズの中心がどこにあるかが重要

 どのような条件とのときに上図の青い点線のような光線を描くことができるか考えてみましょう。

 実はレンズの中心というのはレンズの物理的なサイズから求められるわけではなく、光がレンズを通過するときの光学的なふるまいから決まります。この光学的に求めたレンズの中心のことを主点と言います。

 教科書に出てくるような普通のレンズは材質が均一で両面の形状が対称です。このような場合には、レンズの物理的なサイズから決まる中心と主点が一致し、レンズの中心を通る光線は上図の青い点線のように描くことができます。

 それでは、たとえば、レンズの片面が平面でもう片面が球面の平凸レンズはどうでしょうか。平凸レンズは両面の形状が非対称のため、レンズの物理的なサイズで決まる中心と主点は一致しません。さらに、光を平面側から入射するか、球面側から入射するかで、主点の位置が変わります。このような場合には、レンズの中心を通る光線は、レンズの物理的なサイズで決まる中心を通るように描くことはできないのです。


平凸レンズの後側主点(左)と前側主点(右)

 しかしながら、どのようなレンズでも、入射光と射出光のふるまいを考えることによって主点の位置を求めることができます。主点の位置がわかれば、レンズの主点を通る光線はそのまま直進するように描くことが可能です。厚さを無視できる1枚の仮想的な薄肉レンズとして扱うことができます。主点を通る垂線を主平面と言いますが、すべての光線は主平面で折れ曲がるように描くことができるのです。

 カメラに使われているような複数のレンズを組み合わせた複合レンズも、レンズ光学系の主点の位置がわかれば、光学的に仮想的な1枚のレンズとして扱うことができます。

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