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2020年7月10日金曜日

虹の色の数と日本の文化-虹ができる仕組み⑥

日本人は虹を何色(なんしょく)と認識していたのか 

 現代の多くの日本人は虹の色を7色と認識しています。しかしながら、日本人が遥か遠い昔から実際に虹を見て体験から7色と認識してきたわけではありません。

 もともと、日本人は色を多数見分けることはしておらず、日本神話にも赤・白・青・黒の4色しか出てきません。もちろん、当時の日本人も多数の色を見ていたに違いありませんが、この4色を基本の色と認識していたのでしょう。そして、異文化交流や科学の発展を背景として、時代とともに、さまざまな色を認識するようになっていったのです。

 江戸時代の浮世絵には虹が描かれたものがありますが、それらに描かれている虹の色は数色で7色はありません。下の浮世絵は歌川広重の1856年の作品に描かれた虹です。ほとんど色がついていないように見えます。


歌川広重 六十余州名所図会 対馬 海岸夕晴(1856年)
出典:The Met - Tsushima Kaigan Yubare

 この浮世絵の虹の部分を拡大して、画像の明るさを調整してみました。外側に赤色、内側に青色を確認できます。赤と青の間の色は上図と合わせて考えると白っぽい黄色のように見えます。

 Googleで「浮世絵 虹」で画像検索すると、他にも虹が描かれた浮世絵を見つけることができますが、どれも虹の色は3色程度で、7色に描かれたものは見つかりません(検索結果では浮世絵に塗り絵をして7色としたものも出てくるので注意してください)。

 江戸時代の人たちは美しい虹そのものには興味があったようですが、虹が色の数までには関心がなかったようです。

 1710年に鷹見爽鳩(児島正長)が著した 『秉燭或問珍( へいしょくわくもんちん )』には「太陽のもとでに水を吹くと、紅緑の色をなす」とあります。ここから、太陽のもとで水を吹くと虹ができるということは知られていたこと、虹の色は紅緑の2色と言っても大きな問題ではなかったことが伺えます。

 なお、筆者は古文を読めないので意訳です。詳細は下記のPDFの21ページ左側の虹之説を参照してください。22ページに「太陽」「水を吹く」「紅緑の色」を含む一文があります。

貴重和本デジタルライブラリー(愛知県図書館)
秉燭或問珍( へいしょくわくもんちん )  PDF 21ページの左側 虹之説

 江戸時代後期の絵師・蘭学者の司馬江漢が1796年に著した『和蘭天説(わらんてんせつ)』には「人ヲシテ日西ニアラバ 東ニ向テ水ヲ噴シムレバ、 即チ虹ノ象ヲナス。 黄色・紅色・緑色・紫色・ 青色ナリ」とあり、虹の色として黄色・紅色・緑色・紫色・青色の5色をあげています。また、同著者の1808年の『刻白爾天文図解(こっぺるてんもんずかい)』には「水ヲ噴テ虹ノ象チヲ見ル 日向映ジテ五彩ヲナス」とあります。

日本人はなぜ虹の色を7色と捉えているのか

 以上のように日本では、虹は7色ではなく、多くても5色と考えられていたのです。どうして現代の私たちは虹の色は7色と捉えているのでしょうか。

 もう一度、「虹の色の数は何色(なんしょく)か?-虹ができる仕組み⑤」を見てみましょう。先入観がなければ5色としても問題なさそうですし、頑張ってもせいぜい6色にしか見えません。ニュートンが加えたオレンジの橙色は見分けることができますが、青と紫の間に加えたインディゴの藍色は見分けるのが困難です。ここに藍色を入れること自体にかなり無理があるように思います。

 実はニュートン自身も藍色を入れるのには無理があることを理解していたと思われますが、虹の色の数をどうしても7色にしたかったこと、音にも半音階があるのだから、見分けにくい藍色を加えても差し支えないと考えたいたようです。

 虹の色を多くてもせいぜい5色と捉えていた日本人が7色と捉えるようになったのは、ニュートンの虹の研究に由来する学校教育によるものと考えられています。

 江戸時代に日本の蘭学者の青池林宗が1827年に著した日本初の物理学書『気海観瀾』では、虹の色は「赤・深黄・淡黄・緑・石青・紫・紺の7色と記されています。紫・紺の並びが逆ですが、その後の学術書でも、薄紫・濃紫などいう記述もあり、インディゴの色をうまく見分けることができず、どう日本語で表現するか難儀していたことが想像できます。

 現代に生きる私たち日本人が虹の色を7色と考えるのは教育による先入観からのものであり、文化的な背景、言語学的な背景、自然体験的な背景とするものではないようです。

 虹の色が何色(なんしょく)か?を改めて考えてみるのはとても面白いことです。次回は世界の人たちの虹の色について説明します。

虹の色の数と日本の文化-虹ができる仕組み⑥

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