主観色 回転すると色が見える独楽
ドイツの物理学者・哲学者・心理学者のグスタフ・フェヒナーは、1838年に白黒の円盤を回転させると、円盤に色がついているように見える現象が発見しました。フェヒナーは、この現象が観察者によって主観的に生じると考え、この色を主観色と名付けました。主観色はフェヒナーの色とも呼ばれます。
1895年、イギリスの玩具製造業者のチャールズ・ベンハムは上部を白と黒に塗り分けたベンハムの独楽(コマ)を発売しました。この独楽を回転すると、薄い色がついた円弧がたくさん現れます。
フェフィナーが現象を見つけたが1838年、ベンハムがベンハムの独楽を発売したのが1895年と57年間もの開きがあります。「ベンハムの独楽」があまりにも有名なので、この現象を発見したのがフェヒナーであることはあまり知られていないかもしれません。
ベンハムの独楽の白色の部分は白色光を反射します。白色光をプリズムに通すと、光が分散して光の色の帯が現れます。また、白色光をCD(コンパクトディスク)の裏面やシャボン玉の表面に当てると、光が回折・干渉して、やはり光の色の帯が現れます。
このように白色光は様々な色の光に分光することができますが、ベンハムの独楽で生じる色もコマの表面で反射した白色光が分光して現れた色なのでしょうか。もし、反射光が分光して色が生じているのであれば、上のCDや虹の写真のように現れた色を写真で捉えることができるはずです。
回転しているベンハムの独楽の静止画を撮影しても、色がついていない写真となります。一方、動画で撮影した場合は、次の動画のようにの薄い色がついた円弧が見えます。動画の静止画を撮影すると、やはり色がついていない写真となります。どうやらベンハムの独楽が回転している状態でなければ、色は見えないようです。
ベンハムの独楽で色が見える仕組み
実は、ベンハムの独楽の色はコマが回転しているときにしか見えません。また、コマに当てる光を白色光ではなく黄色などの単色光に変えても別の色が見えます。そして、人によって見える色が異なります。ですから、ベンハムの独楽で色が生じる仕組みは、プリズムやCDやシャボン玉で色が生じる仕組みとは異なります。
ベンハムの独楽の色は錯視で生じます。その仕組みは完全には解明されていませんが、錯視だからと言って、ベンハムの独楽の色が偽物ということはありません。私たちに見える限り、普通の物体の色も、ベンハムの独楽で生じる色も本物の色です。
私たちは、眼の網膜にある赤・緑・青の光に反応する3種類の錐体細胞で色を感じています。ベンハムの独楽の色は錐体細胞の応答時間の違い、残像効果で生じると考えられています。
白と黒で塗り分けられた独楽が高速で回転すると、独楽で反射した白色光が眼に入ったり、入らなかったりします。白色光には赤・緑・青の光も含まれていますので、3つの錐体は同時に応答します。このとき、例えば、錐体細胞の応答時間が赤・緑・青の順に短いとすると、白から黒に切り替わったとき、まず赤の残像がなくなるので、緑と青の混色のシアンが見えます。続いて、緑の残像がなくると、青が見えることになります。
ベンハムの独楽は、私たちが見ている色は光源や物体の色だけでは決まらないことを教えてくれます。アリストテレスが変改説で唱えた、色は白と黒から生じるという考えには感慨深いものがあるのではないでしょうか。
白と黒から色が生じる ベンハムの独楽ー白と黒のはざまに(3)
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