色は数えられるか
太陽光をプリズムによって分散させると赤から紫までの光の色の帯、すなわち可視光線の連続スペクトルが得られます。
このスペクトルに現れる色はおおまかに紫・青・緑・黄・赤の5色ですが、ニュートンは青と紫の間に藍(インディゴ)、赤と黄の間に橙(オレンジ)を加えて7色としました。しかし、実際に色の境界は明確ではなく、色が紫から赤まで連続的に変化しています。大雑把に何色まで見分けられるかは数えることができますが、無数の色が存在していることは明らかです。
可視光線の連続スペクトルの色は光の波長(振動数)に対応した単色光の色ですが、複数の単色光を混ぜ合わせると別の色の光を作り出すことができます。作り出した光の中にはマゼンタのように単色光にない色もあります。また、光源の光を反射することによって生じる物体の色も無数に存在します。
光と色と「マゼンタのおはなし|単色光(波長)が存在しない色」
ですから「色は何色あるのか」という問いに対して「一つ一つ数えることは困難で無数に存在する」としか答えようがありません。
しかしながら、この答えでは色を定量的に扱うことができません。そこで、ヒトの目で見分けることができる色の数がどれぐらいあるのかを考えてみましょう。
ヒトはどれぐらい色の違いを識別できるのか
ひとくちに「青色だ」「赤色だ」と同じ色名で呼んでも、厳密には同じ色ではないことはよく経験することです。たとえ同じ色のインクで物体を塗っても、インクの塗り方や物体の表面仕上げが異なっていれば色の見え方は変わります。このような色の多様性から色の数について考えてみましょう。
色には知覚的なものと、波長や強度など物理的な量で表すものがあります。知覚による色は色の種類を示す色相、色の明るさを示す明度、色の鮮やかさを示す彩度で表されます。これらを色の3属性といいます。色相は光の波長で決まり、明度は反射される光の量(光子の数)で決まります。彩度は光の波長範囲で決まり、波長範囲の狭い色は鮮やかな色になります。
ヒトがどれぐらい色を見分けることができるかの指標については波長弁別閾、色度弁別閾、純度弁別閾があります。
波長弁別閾はある波長λの単色光の色の違いを見分けることができる最小の波長差Δλのことです。次の図のように同じ波長で同じ明るさの色のついた円を被験者に見せ、下側の半円のみ波長を変化させていき、被験者が色の違いを認識する最小の波長差Δλを求めます。
様々な波長の単色光について同じ試験を繰り返し、波長に対してΔλをプロットしたものが次の図になります。
波長弁別閾値は短波長側で7 nm、超波長側で6 nm、中波長の領域では数 nmになっています。このことから、ヒトは数ナノメートルのわずかな波長の違いで色を見分けることができることをがわかります。
ヒトが色をどれぐらい見分けることができるのか虹を例に考えてみましょう。可視光線の範囲を380 nm〜780 nmとすると、その波長幅は400 nmとなります。虹を5色として、それぞれの色の波長幅は同じと考えると、1色あたり波長幅は80 nmとなります。つまりヒトは虹の1色をさらに細かく見分けることができるのです。
色度弁別閾と純度弁別閾も波長弁別閾と同じような試験で求めます。
色度弁別閾は同じ色度の色のついた円を被験者に見せ、下側の半円のみ色度を変化させていき、被験者が色の違いを認識する最小の色度の差を求めます。
純度弁別閾は白色光の円を被験者に見せ、下側の半円のみに単色光を加えたときに、被験者が色の違いを認識する最小の純度の差を求めます。
一般に色度弁別閾および純度弁別閾は短波長側と超波長側で小さく、中波長の領域で大きくなることが知られています。つまり中波長領域では色の違いを認識しづらく、短波長側や超波長側ではわずかな色の違いを認識できるということです。
ヒトはわずか数ナノメートル差の光の色を見分けることができ、さらに色度や純度の差を見分けることができます。1943年にアメリカの色彩学者ドロシー・ニッカーソンは色の3属性を数値化し、色の数を750万色としました。また、色覚に優れた人が見分けることができる色の数は1000万色とも言われています。諸説ありますが、一般にはヒトが見分けれる色の数は数百万色が妥当と考えられています。これらの値はあくまでも推計値で、実験の結果ではありません。
色は何色(なんしょく)あるのかという問いに対して、ヒトが見分けることができる色を数えあげるのは現実的ではありません。
色は何色(なんしょく)あるのか
現在の一般的なカラーディスプレイは24 bitフルカラーで1677万7216色(RGB= 8 bit × 8 bit × 8 bit = 2563)を表現することができます。フルカラーはあらゆる色を表現できるることを想定していますが、ヒトがフルカラーのすべての色を見分けることができるわけではありません。最近では10億色以上を表現できる表示システムもありますが、ヒトの色の識別限界を超える色数を再現できることにどれぐらいの価値を見出すことができるかは疑問です。
さて、色は約1700万色ある、ヒトは数百万の色を見分けらると言われても、色の数としては具体的なイメージがわかないかもしれません。なぜなら、私たちが普段行っている現実的な色の識別は、単に微妙な色の違いを識別できるかどうかではないからです。微妙に異なる色を同じ色と判断しても問題ない場合は同じ色と認識するでしょうし、逆に同じ色と判断すると都合の悪い場合にはあえて異なる色と区別するでしょう。たとえば、木々の緑の葉を見たときに微妙な色の違いを認識せずにひとくちに「緑の葉っぱ」と呼ぶことが多いでしょうが、その絵を描こうとしたときには絵の具の黄緑と緑は違う色として区別するでしょう。
こうなると色は何色(なんしょく)あるのかという質問の答えは、ヒトがどれぐらいの色を認知しているか、つまり色の名前はいくつあるのかを考えた方が現実的でしょう。
色名は規格や色彩の文献に掲載されています。日本産業規格(旧日本工業規格)「JIS Z 8102:2001 物体色の色名」では、たった269の慣用色名しか規定されていません。他の文献を見ると多いものでも7500色です。色の名前の種類は地域、文化、言語によって異なりますが、数千色と考えておくと良いでしょう。
ところで、色の名前を指定したからと言って、まったく同じ色が再現できるわけではありません。そこで色を正確に再現するために色見本や色を数値化したカラーオーダーシステムが使われています。
色見本は目的や用途によっていろいろなものがありますが、数百から数千色あります。カラーオーダーシステムはディスプレイのRGBやプロセス印刷のCMYKなどがあります。色見本やカラーオーダーシステムにより色を正確に伝えることができます。
光と色と THE NEXT「印刷屋さんの色合わせープロセス印刷と特色印刷」
ヒトが区別することができる色の数は数百万色、色の名前の数は数千色と考えておくと良いでしょう。
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