最終更新日:2026年1月31日
目次|光の三原色で作れない色
- 光の三原色で全ての色を再現できるのか
- なぜ作れない色が存在するのか?
- なぜ3色(RGB)の光で色を再現できるのか?
- 光の三原色(RGB)が抱える色再現の限界
- 私たちが認識できる色域(ガマット)は?
- 光の三原色(RGB)で作れない色とは?
- 光の三原色(RGB)の制限は超えられるのか?
- 真実の色をめざして:理論と想像力が作る色彩文化
- よくある質問(FAQ)
光の三原色で全ての色を再現できるのか
ディスプレイ技術が飛躍的に発展し、私たちが目にする映像はかつてないほど鮮明になりました。高解像度の4Kや8Kのディスプレイに表示されている映像を見ていると、私たちは「ディスプレイを通じてあらゆる色を見ることができている」と思いがちです。
しかし、映像がどんなに鮮明になっても、光の三原色(RGB)で作られた色は後述する再現できない色の領域(色域:ガマット)が存在します。実際、ディスプレイに映し出された美しい景色を見て、どこか「自然の中で直接見ている景色の色とは少し違う」と感じたことはありませんか? この違和感こそが光の三原色(RGB)による色彩の再現の限界なのです。
なぜ作れない色が存在するのか?
私たちが日常で認識している色とは光源が発する光や物体が反射する光の色です。そして、色の基準となるのは私たちの世界を照らしている太陽光です。 すべての色を再現できるということは、太陽光に含まれる光や物体が反射する光の色の色調をありのまま再現できるということを意味します。
しかし、現代のディスプレイは太陽光に含まれるすべての可視光線から作られる色を映し出す仕組みではありません。バックライトが発する白色光からカラーフィルタを使って取り出した赤(R)・緑(G)・青(B)の光や、あるいは赤(R)・緑(G)・青(B)3つの独立した光源の光で色を合成しています。色を作成する光が限られているためディスプレイの色の再現には限界があるのです。
なぜ3色(RGB)の光で色を再現できるのか?
そもそも3色の光で私たちが見ている多くの色を再現できるのでしょうか。その理由は私たちヒトの色覚に関係しています。眼の網膜には光のエネルギーの刺激を受けて反応する桿体細胞と錐体細胞と呼ばれる視細胞が存在します。桿体細胞は暗い場所で光の強弱を感じ、錐体細胞は光のエネルギーの大きさの違いを捉えて色を識別します。錐体細胞は動物によって異なりますが、ヒトの網膜には長波長の光に反応するL錐体(赤色錐体)、中波長の光に反応するM錐体(緑色錐体)、短波長の光に反応するS錐体(青色錐体)の3種類の錐体細胞が存在します。
光は波長が短いほど高エネルギーで波長が長いほど低エネルギーです。それぞれの錐体細胞が受けた刺激の割合は視神経を通じて脳に送られます。脳は3種類の錐体細胞の刺激の割合から色を認識します。つまりヒトの色覚は目に入ってきた光の物理量であるエネルギーを生理現象で生じる色に変換しているのです。
私たちはあらゆる光の色を3種類の錐体細胞の刺激の割合で認識しています。ですから、虹の中に存在する単色光の黄色、光の三原色の赤色と緑色を混色してできる黄色、物体からの反射光の黄色を同じプロセスで認識します。つまり3種類の錐体細胞を刺激の割合が同じであれば光の成分が異なっていてもほぼ同じ色と認識することができるのです。
このヒトの色覚の仕組みを巧みに応用して光の三原色(RGB)で色を再現しているのがディスプレイです。この巧みな応用こそが同時に色の再現の限界を生じる原因にもなっているのです。なぜなら、光の三原色(RGB)での色再現は、ある意味で脳を騙しているようなものだからです。例えば、太陽の下で見るバナナの黄色と、画面に映し出されたバナナの黄色はほぼ同じ黄色に見えても、目に入ってくる光は別物です。実際に同じように見える色でも光の成分が異れば、錐体細胞の刺激の割合も厳密には異なるのです。
光の三原色(RGB)が抱える色再現の限界
赤(R)と緑(G)の光を同じ強さで混ぜると、その中間の黄色(Y)が生じます。このとき赤(R)を強く、緑(G)を弱くするとオレンジ色が生じます。2色による混色で混ぜて作ることができる色は必ず元となる2つの色を結んだ直線の上にしか現れません。なぜなら、そこには他の色は成分として含まれないからです。
赤(R)と緑(G)に青(B)の光を加えてみましょう。すると3色の混色で生じる色は赤(R)と緑(G)の直線、赤(R)と青(B)を結んだ直線、緑(G)と青(B)を結んだ直線に囲まれた面、すんわち三角形の領域になります。これが光の三原色(RGB)で再現できる色域(ガマット)です。ディスプレイが表現できる色の世界はこの3点を頂点とした三角形の内側に固定されてしまうのです。
言葉だけでは実感が湧きにくいかもしれません。実際に3つの光の出力を操作して、色がどのように三角形の領域で作られていくのか以下のシミュレーターで体験してみてください。2つの色光だけで作れる色は常にその直線上の中間にあり、3つ目の色光が加わって初めて色が面として広がることが体感できると思います。
私たちが認識できる色域(ガマット)は?
私たちが認識できるすべての色は一体どのような形の色域(ガマット)をしているのでしょうか。それを科学的に定義したものが国際照明委員会(CIE)が1931年に「可視光とヒトの色覚における色との定量的関係」を規格化したCIE 1931 色空間です。
CIEは次の図のような実験装置を用いてヒトが認識しているすべての色を光の三原色(RGB)で再現する規格「CIE RGB 色空間」を作成しました。
この等色実験により光三原色(RGB)の加法混色で色を作成すると彩度が高い光は再現できないことがわかりました。たとえば単色光のシアンの色は光の三原色の緑(G)と青(B)の混色では再現できなかったのです。単色光のシアンの光に赤(R)を加えると、緑(G)と青(B)で作ったシアンの光と同じ色になりました。
ヒトの3種類の錐体細胞はそれぞれの反応する範囲が大きく重なり合っています。たとえば単色光のシアンの光と三原色(RGB)の緑(G)と青(B)の混色で作成したシアンの光では錐体細胞の反応が異なります。そのため単色光のシアンを光の三原色(RGB)では厳密に再現できないことがわかったのです。
そこでCIEはRGB 色空間をもとに計算によってヒトが認識できるすべての色を表したCIE XYZ色空間の規格を作りました。この色空間は等色から理論的に導かれたものであり、光の三原色(RGB)で色を再現する実在のディスプレイ装置などには依存しません。
CIE 1931 xy 色度図は、ヒトの色覚で認識できる色域(ガマット)を2次元のxy座標上にプロットした馬蹄形のグラフです。外縁の曲線は純粋な単色光の波長を示します。下部には波長表示がありませんが、この部分はヒトが認識できる色のうちマゼンタなど単色光に存在しない混色で生じる色光です。グラフの中心に向かうほど色が淡くなります。中心は白色点と呼ばれ、太陽光に近い白色光に相当する位置になります。
前述の通り実際の光の三原色(RGB)の混色で作ることができる色域(ガマット)はCIE 1931 xy 色度図にはなりません。次の図はCIE 1931 xy 色度図私たちが日常的に使っているディスプレイの規格の色域を重ねたものです。 図中の小さな三角形が一般的なディスプレイで使われている標準規格 sRGB の色域(ガマット)です。そして、それより一回り大きいのが印刷やプロ向けの規格 Adobe RGB の色域(ガマット)です。いずれの三角形もヒトの色覚の限界である馬蹄形の外縁には届かず、特に緑から青にかけての領域が大きく欠けていることがわかります。
この図からわかる通り最高級のディスプレイを使ったとしても、RGBの三角形内部の色域(ガマット)に存在する色しか再現できないのです。とりわけ馬蹄形の外縁の鮮やかな緑やシアンやマゼンタは再現できません。そのため、たとえば綺麗なエメラルドグリーンの海の映像を見ても、どこか本物の色と違う、鮮やかさが物足りないと感じるのです。
光の三原色(RGB)で作れない色とは?
光の三原色(RGB)による色覚の再現は極めて合理的で効率的ですが、自然界が持つ無限の色の多くを切り捨ててしまっているのです。どんなに技術が進歩しても、光の三原色(RGB)で色を再現する限り、この馬蹄形の豊かなカーブの外縁の色を見ることはできません。ですから、この三角形の織に閉じ込められている光の三原色(RGB)の色域では自然界に存在するすべての色を再現することはできないのです。具体的に光の三原色で作れない・表現が困難な色は以下の通りです。
- 高彩度の色:自然界に存在する鮮やかな色
- 完璧な黒色:光の三原色(RGB)は混ぜると白(白色光)に近づく加法混色のため、混色で黒を表現することはできません。光を消灯すると黒になります。
- 光の三原色(RGB):赤(R)、緑(G)、青(B)は原色ですから混合で作ることはできません。
私たちが眺めているディスプレイの色は、自然界の広大な色域(ガマット)に比較すると、ほんの一部を切り取った三角形の檻の中に過ぎません。クリエイターたちは、この限られた色域の中で、いかに本物の色を再現させるかという試行錯誤を繰り返してきました。彩度が足りなければコントラストで補い、特定の色が作れなければ隣接する色と調和させるなどの工夫をしています。
光の三原色(RGB)の制限は超えられるのか?
この光の三原色(RGB)の三角形の檻の中から抜け出す方法はあるのでしょうか? 私たちは自然界の広大な色彩を再現することはできないのでしょうか。実はこの不可能性への挑戦こそが現在のディスプレイ技術の最先端となっているのです。
第一の方法は光源の多原色化です。光の三原色(RGB)では三角形の檻しか作れませんが、原色の数を増やすことで、その形を四角形、五角形へと広げることができます。その結果、CIE xy 色度図の馬蹄形の外縁に近づけることができます。次の図はCIE 1931 xy色度図上で従来のsRGB(三角形)に黄色(Y)を追加し、色域が四角形に広がった様子を示した図です。特に緑から赤にかけての再現範囲が拡大していることがわかります。わずかな面積の広がりですが、冒頭のひまわりを本物に近い色で表現できるようになります。
実際に、かつてシャープが黄色(Y)を加えたRGBYの4原色で色を再現できるディスプレイ AQUOS クアトロン を開発し販売していました。残念ながら主流とはならなかったため販売は終了していますが、当時としては色域(ガマット)を広げる画期的な試みでした。最近では商業施設や映画館などで6原色以上の光源を用いることで、より実物に近い色彩を再現する多原色プロジェクターが開発されています。
第二の方法は、3原色の数は変えずに3点の位置を馬蹄形の外縁に押し広げる手法です。つまり最新の光源を利用して原色の純度を向上することです。現在の超高精細放送(4K/8K)のBT.2020規格では最新の光源を用いて xy 色度図の75.8%まで色域(ガマット)を広げています。最新の光源には次の3種類が存在します。
- RGBレーザー: 光の純度が極めて高く、非常に鋭いピークの単色光を得られるため、BT.2020の色域をほぼ100%カバー可能です。まさに究極の光の三原色(RGB)の光源です。
- 量子ドット (Quantum Dot): 青色LEDの光を特定の波長だけを強く発光させる特殊な結晶に当てることで高純度なRGBを発光させます。現在の高画質ディスプレイの主流となりつつある技術です。
- 有機EL (OLED): 素子自体が発光するため鮮やかな発色が可能です。しかし、BT.2020企画を満足させるためにはさらなる新材料の開発が必要です。
真実の色をめざして:理論と想像力が作る色彩文化
どれほど技術が進化してもCIE xy 色度図の色域を完全にカバーすることは困難です。しかしながら、最終的に色を認識しているのは脳です。私たちの脳には不完全な情報を補完する能力が備わっています。ですから物理的な条件が揃わなくても、たとえば画面上に鮮やかなシアンの単色光が存在しなくても、光のハイライトやコントラストを工夫することによって鮮やかなシアンを脳に認識させることができます。そういう意味では現実に忠実であること以上に、人間の記憶に存在する理想の色を呼び覚ますことこそがリアリティの追求と言えるかもしれません。
映画、写真、絵画、アニメなどの色彩は決して自然界の単なるコピーではありません。そこには三角形の檻の限られた領域の中でいかに心を動かす色を再現するかというクリエーターの強い意志が介在しています。完璧な再現ができないからこそ生まれるのが表現のゆらぎです。その隙間を私たちの想像力が埋めることで色彩の文化が成り立っているのです。
よくある質問(FAQ)
Q:RGBの三原色ですべての色を再現できないのはなぜですか?
A:ヒトの3種類の錐体細胞はそれぞれの反応する範囲が大きく重なり合っています。たとえば単色光のシアンの光と三原色(RGB)の緑(G)と青(B)の混色で作成したシアンの光では錐体細胞の反応が異なります。そのため単色光のシアンを光の三原色(RGB)では厳密に再現できないのです。
Q:RGBの制限を克服する技術にはどのようなものがありますか?
A:レーザー光源や量子ドットを用いて色の純度を高め再現範囲を広げる技術や、RGBに他の原色を加えた多原色表示などがあります。
Q:物理的に再現できない色を、人間はどのように認識していますか?
A:物理的にディスプレイで再現できない色であっても人間の脳は周囲のコントラストや光のハイライトなどの情報を利用して記憶にある理想の色を補完して認識する能力を持っています。
【あわせて読みたい:色彩の深淵へ】
本館「光と色と」ではこの記事のベースとなった色彩の基礎知識を多数公開しています。 光と三原色の基本については次の記事を参照してください。










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