はじめに
年齢を重ねるとともに近くのものが見えにくくなるのが老視(老眼)です。目が正常な人が老眼になると遠くは良く見えるものの近くが見えにくくなり老眼鏡が必要となります。一方、近視の人は近視眼鏡を外すと遠くが見えなくなりますが近くは良く見えます。
このように正常な眼の人と近視の人では症状が異なりますが老眼になる仕組みは同じです。老眼になると見えづらくなるため心配になる人もいますが、老眼になる原理や仕組みを知れば生理的な現象であることがわかり老眼鏡の選び方もわかります。
眼はどのようにピントを合わせているのか
ヒトの眼は遠くのもや近くのものを見るときには毛様体を弛緩・収縮することによって水晶体の厚みを変えて網膜に綺麗な像ができるようにピントを合わせます。眼が遠いところを見るときは毛様体が弛緩し水晶体が最も薄い状態になります。近くのものを見るときには毛様体が収縮して水晶体が厚くなります。この働きによって私たちは近くのものや、遠くのものにピントを合わせて明瞭に見ることができるのです。
老眼で近くのものが見えなくなるのは老化によって毛様体筋で水晶体の厚みを調節する能力が低下し水晶体を厚くすることができなくなるからです。一方、水晶体が薄くなる調節能力は低下しないので遠くの見え方は変わりません。遠くがどこまで見えるかは元々の眼の視力によります。
眼でピントを合わせることができる範囲
次の図のように眼でピントを合わせることができる最も遠いところを遠点、最も近いところを遠いところを近点といいます。近点と遠点の間がよく見える範囲でこれを明視域と呼びます。正常な眼(正視)の遠点は無限遠にあります。一方、近点は若い頃は約10 cmぐらいですが加齢とともに長くなります。正視の成人の近点は個人差はありますが25 cm とされています。
眼は近点より近いところにピントを合わせることができません。正視の成人でものがよく見える範囲は近点(約25 cm)以上離れたところ です。この25 cmを明視の距離といいます。近視や遠視の遠点と近点の位置は正視とは異なるため明視域が変わります。
正常な眼(正視)の働き
正視が遠くのものを見ているとき、毛様体は弛緩しており水晶体は無調整の状態で最も薄くなっています。この状態で正視は無限遠にある物体の像を網膜上に結びます。
遠くを見ている状態では近くのものが良く見えません。水晶体が薄い状態では近くにある物体からやってくる光は網膜の後側で像を結ぶように届くからです。
近くを見ているとき、毛様体は収縮して水晶体を厚くし物体の像を網膜上に結ぶようにピントを合わせます。
正視が老眼になると
正視の人は「眼が良いので早く老眼になった」と感じることがあります。しかし、老眼は毛様体による水晶体の厚さの調節能力の低下が原因です。老眼になる時期がいつになるのかはもともとの視力は関係ありません。正視の人は普段かから眼鏡もかけておらず遠くも近くも良く見えるので老眼になり始めると早めに気が付きやすいという面があります
早めに老眼に気が付くことから眼が良くて遠いところが見えるので近くが見えづらくなったという理由付けをする人もいます。上述の通り根拠はありませんので、これが耳障りに聞こえる人もいるかもしれませんが、誰もが加齢と共に老眼になりますので温かく見守ってあげてください。
近視が老眼になると
近視は眼の屈折力が正視より大きい状態です。水晶体が厚くなり薄い状態に戻らない症状と眼の奥行きの長さ(眼軸長)が正視よりも長い症状が複合的に生じ、遠くの物体の像が網膜より手前で結ばれてしまうためピントが合わなくなります。そのため近視の遠点は無限遠になく近視の度数の分だけ手前に近づいて有限距離になります。一方、近点については正視より短い距離のところにピントを合わせることができます。つまり明視の距離が25 cmより短くなります。
近視を矯正するには眼の屈折力を弱めて網膜にピントが合うようにする必要があります。そのため光を広げる働きのある凹レンズを使用します。近視を理想的に矯正すると正視と同じ状態になり、遠点は無限遠となり近点も25 cmになります。老眼になっていなければ近くも遠くもよく見えます。
近視が老眼になるとどのようになるでしょうか。近視眼鏡をかけている状態では正視の場合同じで遠くはよく見えますが近くが見えづらくなります。一方、近視眼鏡を外すと眼の屈折力が元に戻って正視より強くなるため、遠くは見えづらくなりますが、近くはよく見えるようになります。ですからある程度進んだ近視は眼鏡を外すと近くが見えるようになるため老眼鏡を使わずに済みます。また弱い近視は眼鏡を外しても近くが良く見えるようになりませんが正視の老眼に比べるとやや余裕があります。このことから近視の人は正視の老眼に気が付きにくいという面があります。
遠視が老眼になると
遠視は眼の屈折力が弱いか眼軸長が短いのが原因です。毛様体が弛緩して水晶体が最も薄い状態で遠くを見たとき、遠くの物体の像が網膜より後側で結ばれてしまうためピントが合わなくなります。つまり遠視の遠点は正視の遠点(無限遠)より遠くにあることになり、遠くを見るときも毛様体を収縮させて水晶体を厚くしています。一方、遠視の近点は水晶体の調節能力が十分にあるうちは正視とさほど変わりませんが、正視よりも余計に毛様体を収縮して水晶体の厚くする必要があります。つまり、遠くを見るときも近くを見るときも毛様体が収縮していつも眼が休まることなく緊張している状態です。
遠視は水晶体の調整能力が十分にあるうちは遠くも近くも良く見えます。遠くが良く見えるため眼が良いと勘違いしやすいのですが、遠視が進むと眼が疲れやすいなどの症状がでるため矯正が必要です。遠視を矯正するには像を網膜上に結ぶようにするため眼の屈折力を強める必要があります。そのため凸レンズを使って網膜に像ができるようにピントを合わせます。遠視を理想的に矯正すると正視と同じ状態になり、遠点は無限遠となり近点も25 cmになります。凸レンズで矯正することにより眼が過度に緊張状態にならないようにすることができます。
遠視が老眼になると遠視眼鏡をかけていない状態では正視と同様に近くが見えづらくなります。遠視眼鏡をかけている状態では裸眼の状態より近点が近づいているはずですから初期の老眼には対応できるでしょう。しかし、遠視眼鏡をかけている状態で近くが見えづらくなった場合には度数の高い老眼鏡をかけて近点を近づける必要があります。すると今度は遠点が近づくため遠くが見づらくなります。
老眼の矯正
正視の老眼は老眼鏡をかけると近くは見えるようになりますが遠くは見えづらくなります。近視の老眼は近視眼鏡を外すと近くは見えるようになりますが遠くが見えづらくなります。正視の老眼はより度数の強い遠視眼鏡にすると近くは見えるようになりますが遠くは見えづらくなります。
正視か近視か遠視か、また度数がどれぐらいかによって程度は異なり見ますが老眼鏡をかけると近くが見えるようになり遠くが見えづらくなります。
読書やパソコンの使用など見るものまでの距離を固定できる場合は普通の老眼鏡で対応できますが、中距離や遠距離を見ようとすると老眼鏡を外したり眼鏡をかけ直したりする必要があります。近くも遠くも見たい場合は遠近両用眼鏡が便利です。遠近両用眼鏡はレンズの上側と下側で屈折率が異なり視線を移動することによって遠近を使い分けます。遠くを見るときはレンズの上側を使い、近くを見るときは視線を下げてレンズ下側を使ってものを見ます。遠近両用眼鏡には境目のある二重焦点レンズと境目のない累進屈折レンズがあります。
正視の人の遠近両用眼鏡はレンズの上側には度が入っておらず下側が凸レンズになっています。近視の人のものはレンズの上側は近視眼鏡(凹レンズ)で下側は近視の度数が低いか度が入っていません。遠視の場合は上側は遠視眼鏡(凸レンズ)で下側はさらに度数が強くなっています。
単焦点のコンタクトレンズは付け外しが必要なため老眼のみの矯正には向いていませんが、コンタクトレンズにも遠近両用のものがあります。遠近両用コンタクトレンズは大きくわけると、交代視型(視軸移動型)と同時視型があります。
交代視型はレンズに遠くを見る遠用部と近くを見る近用部があり、遠近両用の老眼鏡と同様に視線を移動することによって遠近を使い分けます。同時視型は遠用部と近用部から入った光が同時に網膜上に結像します。眼が遠くを見ているときには近くのものの像がぼやけ、近くのものを見ているときは遠くのものの像がぼやけることになりますが、脳が網膜上でピントが合った方の像を見るように選択します。
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