2020年7月13日月曜日

世界各国の虹の色の数-虹ができる仕組み⑦

世界各国で虹の色の数は何色(なんしょく)と認識さているのか

同じものを見ているはずなのに、虹の色の数は世界各国、見る人で様々です。まず、次の虹の写真を見て、何色が見えるか、色をあげてみましょう。


虹の色の帯の中にどんな色が見えるか?

 赤色・橙色・黄色・緑・青(シアンに見える)・紫の6色はなんとなく区別がつきます。シアンと紫の間に若干、濃い青色が見えるような感じもします。これが藍なのでしょうか。

 次の写真は反射型の回折格子で白色光を分光した様子を撮影したものです。上の虹の写真と比較してみてどうでしょうか。


反射型回折格子による白色光の分散

 それでは、色の体感したところで、世界各国で虹の色がどのように捉えられているのか考えてみましょう。

日本

 「虹の色の数と日本の文化-虹ができる仕組み⑥」で説明した通り、日本人の多くが虹を7色と認識しているのは、ニュートンの虹の研究に由来する学校教育によるものです。

 虹を7色と記した日本初の物理学書『気海観瀾』は蘭学者の青池林宗が著したことからもわかるとおり、当時の西洋学術の多くはオランダから伝えられたもので、物理学も例外ではありませんでした。

オランダ

 そこで、日本に虹の色が7色であることを伝えたオランダにおける虹の色の数を調べてみると、日本と同様に 赤  橙  黄  緑  青  藍  紫 の7色となっています。

イギリス

 オランダが伝えた7色はイギリス人のニュートンの研究に基づくものです。イギリスの虹の色を数を確認してみたところ、ニュートン以前は 赤  黄  緑  青  菫 の5色で、現在は 藍 が区別されなくなり、 赤  橙  黄  緑  青  紫 の6色となっています。

 ニュートンは1703年にイギリスの王位学会(王位教会、the Royal Society of London)の会長に就任し、1704年に『Opticks 和名:光学』を発表しています。ニュートンの権威を考えると、当時は科学的な解釈として虹の色は7色とされていたと考えられますが、長い年月を経て実際に見分けることができる6色となったのでしょう。

アメリカ

 江戸時代末期の1853年にアメリカからマシュー・ペリーが率いる艦隊が日本に来航しました。いわゆる黒船来航です。当時のアメリカは西部開拓時代へ入る頃で、虹の色はニュートンの研究に基づく理科教育により、 赤  橙  黄  緑  青  藍  紫 の7色とされていました。

 1833年にマリー・スウィフト(Mary Swift)が著した『First lessons on natural philosophy for children』にも、虹の色は 紫  藍  青  緑  黄  橙  赤 と記載されています。この本は日本で1867年に『理学初歩』というタイトルで訳本が出版され、当時の英語教育に使われたようですが、理科教育にも大きな影響を与えたそうです。

First lessons on natural philosophy for children 
Mary A. Swift 1833 (1859年に改定)
Google Books  page 159 
Into how many colors may light be separated ?
Light may be separated into seven colors.
What are the names of these colors ?
Violet indigo blue green yellow orange red.

 現在のアメリカでは、虹は 赤  橙  黄  緑  青  紫 の6色と認識されています。この背景には、理科教育の見直しがありました。

 ジョン・デューイが創設したシカゴ大学の実験学校で科学を教え、子ども向けの科学書を多数執筆したベルタ・M・パーカー(Bertha Morris Parker)は、1941年に著した『Clouds, rain, and snow』において、見分けるのが難しい 藍 をわざわざ虹の色に含める必要はなく、そもそも虹を7色とするのは無理があるという考えから、虹は 赤  橙  黄  緑  青  紫 の6色からなると説明しました。

Open Library (OpenLibrary.org) Bertha Morris Parker
Clouds, rain, and snow (1941)
page 36
11. Sunlight is made up pf red, orange, green, blue, and violet light.
12. A rainbow is made by the passing of sunlight through tiny drops of water in the air.

 ベルタ・M・パーカーは子どもたちに頭ごなしに虹の色を6色と教えるのは望ましいことではなく、実際にプリズムで光を分散させて 藍 が見分けにくいことを確認させ、体験をもって虹の色は6色と教えるように提案しました。

 この提案はアメリカの理科教育で受け入れられ、1941年以降は、虹は6色であると説明された教科書が多数出版されるようになりました。やがて、虹は7色であるというニュートンの研究に基づく教育に終止符が打たれました。

世界各国の虹の色の数のまとめ

 その他、世界各国での虹の色の数を調べてみましたが、何色と断定するのが難しい国もあって、画一的に表にまとめるのは難しそうです。あえて、まとめてみたら、下記のような感じになりました。
      
7色 日本・オランダ・イタリア・韓国
6色 アメリカ・イギリス
5色 ドイツ・フランス・中国・メキシコ
4色 ロシア・インドネシア

 WordReference.comのLanguage Forumsでは、虹の色を尋ねる質問rainbow: number of colours/colorsがあり、いろいろな国の人が答えています。ロシアでは7色だという人もいて、上記の表とは食い違いがあります。また、各国のamazonのサイトで虹の塗り絵を探してみると、やはり食い違いがあます。

 どこかの国の虹の色は何色かは現地の人に聞けばわかると思いますが、なかなか調べるのは難しいです。しかし、Googleの検索で手がかりを見つけることができるかもしれません。あ

  1. Wikipediaで国名を検索して、その現地語での国名を調べます。
  2. 現地語の国名+rainbowで画像検索する
  3. 現地語のrainbowがわかれば、現地語の国名+現地語のrainbowで画像検索してみる

 YouTubeでRainbow Songで検索すると、子ども向けの虹の色の歌がたくさん見つかりますが、7色だったり、6色だったりします。

 次の歌はRED、ORANGE、YELLOW、GREEN、BLIE、PURPLEの6色と歌っています。

I Can Sing a Rainbow | The Kiboomers

 次の映像では7色と歌っていますが、RED、ORANGE、YELLOW、GREEN、BLUE、PURPLE、PINKと歌っています。

Rainbow Colors Song | The Singing Walrus

 次の映像ではRED、ORANGE、YELLOW、GREEN、BLUE、INDIGO、VIOLETの7色と歌っています。

Rainbow Song | Nursery Rhyme

 そもそも、虹が何色に見えるかは、その人の感性にもよるので、日本のように頭ごなしに教育されていない限りは、答えが多岐にわたるのは当たり前のことでしょう。

 虹の色の数はいくつあるのかは科学的な問題のように思えるかもしれまえんが、実は極めて人間的で、社会的なものと言えるでしょう。

虹の色の覚え方

そもそも体験的な知識ではない7色を覚えなければならないので、虹の色を丸暗記する方法が考えられたのだと思いますが、虹の7色は日本語と英語では次のように覚えることが多いようです。

 日本せき(赤)・とう(橙)・おう(黄)・りょく(緑)・せい(青)・らん(藍)・し(紫)で「せきとうおうりょくせいらんし」
 英語Red(赤)・orange(橙)・yellow(黄)・green(緑)・Blue(青)・indigo(藍)・violet(紫)の頭文字を取り、 Roy G Biv(ロイ・ジー・ビヴ)

 次の映像では虹の色はIndigoを除いてRoy G BVではないか?紫は見えるか?シアン(CYAN)が見えるのでRoy G CBではないかなどと言いながら虹の色について説明しています。虹の中にPURPLEやVIOLETが見えることについて、この映像は非常に重要な指摘をしています。設定のギアアイコンから英語字幕を表示させて、自動翻訳にすると日本語字幕が表示されます。

This is Not a Rainbow

虹の色の数は文化的問題

 万国共通の自然現象の虹を見ているのにも関わらず、虹の色の数は世界各国、そして人によって様々で異なります。その背景には、色彩に対する言語学的な受け止め方の違いがあるでしょう。たとえば、ある国の虹の色の数が少ないからといって、その国の人々の色彩に対する感性が劣っていたり、知識が不足していたりするようなことはないでしょうす。

 虹の色が何色に見えるのかは、もはや科学の問題ではなく、文化の問題です。何色に見えているのかではなく、何色と見ようとしているのかなのです。

 ですから、子どもが描いた虹が7色でなくても、大きな問題ではありません。むしろ、虹は7色という先入観なしに、どのように見えているのかをありのままに描いているのです。虹は7色だと指摘することはナンセンスと言えるでしょう。

虹を8色と見分けるアフリカのアル部族

 これもインターネットでよく見かける情報ですが、アフリカのアル部族の人たちは虹を8色と捉えているそうです。虹は7色という頭ごなしの知識をもっていたわけではないと思いますので、本当に虹の色を8色見分けることができている、あるいはできていたのではないでしょうか。もしそうだとすると、この件だけは科学的な探究が必要かもしれません。

 ヒトは眼の網膜上に存在する赤・緑・青の3色の光にそれぞれ反応する3種類の錐体細胞で色を見分けていますが、まれに4色で色を見分けることができる人もいるそうです。

 ある種の鳥類や魚類はヒトよりも色をたくさん見分けることができ、鮮やかな色の世界を見ていることがわかっています。昆虫には、紫外線の領域の光が見えているものもいます。

 虹を7色と見分けることすら難しいのに、アル部族の人たちが虹を8色と認識することができるとするならば、我々とは異なる色覚の能力を有している、あるいは有していた可能性もありそうです。

 また、空にかかる虹は、大気の状況によって、色が明瞭に見えないことがあります。大気が澄んでいると、虹の色の連続的な変化がより明瞭に見えるのかもしれません。

世界各国の虹の色の数-虹ができる仕組み⑦

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